深呼吸をした時、咳やくしゃみをした時、あるいは寝返りをうった時、胸の特定の場所に「ズキッ」「ピキッ」という、まるで針で刺されたかのような鋭い痛みが走る。そのあまりの痛みに、「心臓の病気ではないか」と、深刻な不安に駆られる方も少なくないでしょう。しかし、その痛みの原因は、多くの場合「肋軟骨炎(ろくなんこつえん)」という、骨や軟骨の炎症であることが少なくありません。では、この肋軟骨炎を疑った時、私たちは一体、何科の病院へ行けば良いのでしょうか。この問いに対する最も的確な答えは、肋軟骨炎は骨や軟骨といった「運動器」の病気であるため、その専門家である「整形外科」を受診することです。肋軟骨炎は、胸の前面にある胸骨と、あばら骨である肋骨とを繋いでいる「肋軟骨」というクッションの役割を果たす軟骨部分に、何らかの原因で炎症が起きてしまう病気です。整形外科医は、まず丁寧な問診で、いつから、どこが、どのように痛むのかを詳しく聞き取ります。そして、肋軟骨炎の診断において非常に重要となるのが「圧痛(あっつう)」の確認です。医師が患者さんの胸を触診し、痛みを訴えている場所を指で押した時に、本人が「そこです!」と訴えるような、ピンポイントの強い痛みが再現されれば、肋軟骨炎の可能性が非常に高まります。さらに、心臓や肺といった、他の重要な臓器の病気でないことを確認するために、胸部レントゲン検査や心電図検査が行われることもあります。これらの検査で異常が見つからず、特徴的な圧痛が確認されれば、肋軟骨炎と診断されます。治療としては、炎症を抑えるための湿布や塗り薬、内服の消炎鎮痛剤が処方され、安静を保つよう指導されるのが一般的です。痛みが強い場合には、局所麻酔薬やステロイドの注射が行われることもあります。このように、整形外科は、肋軟骨炎の診断から治療までを一貫して行うことができる、まさに専門の診療科なのです。胸の鋭い痛みに気づいたら、まずは運動器の専門家である整形外科の扉を叩いてください。