夏バテによる食欲不振や胃もたれに陥った時、弱った胃腸に鞭打って、無理にスタミナをつけようと脂っこい焼肉などを食べるのは逆効果です。ダメージを受けた胃腸をいたわり、その働きを優しくサポートしてくれるような食事の工夫が、回復への近道となります。まず、食事の基本は「消化の良いもの」を選ぶことです。胃腸に負担をかけないよう、脂質の多い揚げ物や肉の脂身、食物繊維が多すぎるゴボウやきのこ類は、症状が落ち着くまでは避けましょう。おすすめは、おかゆや雑炊、よく煮込んだうどん、豆腐、鶏のささみ、白身魚などです。これらは、消化しやすく、かつ体に必要なタンパク質も補給できます。次に、胃腸の働きを助けてくれる「薬味やスパイス」を上手に活用しましょう。例えば、大根おろしに含まれる消化酵素（ジアスターゼ）は、でんぷんの消化を助けてくれます。梅干しに含まれるクエン酸は、唾液や胃酸の分泌を促し、食欲増進や疲労回復に役立ちます。生姜やミョウガ、シソなどの香味野菜は、その独特の香りで食欲を刺激し、胃腸の血行を促進する効果も期待できます。カレー粉に含まれるスパイスも、胃腸の働きを活発にしますが、刺激が強い場合もあるので、少量から試してみるのが良いでしょう。また、冷たいものばかりでなく、「温かい食事」を意識することも非常に重要です。温かいスープや味噌汁は、冷えた胃腸を内側から温め、血行を良くして消化機能を高めてくれます。特に、野菜をたっぷり入れて煮込んだスープは、汗で失われがちなビタミンやミネラルも同時に補給できるため、一石二鳥です。食欲がない時は、無理に固形物を食べようとせず、まずはこうした具だくさんのスープから栄養を摂るのも良い方法です。そして、一度にたくさん食べるのではなく、一日を通して「少量ずつ、数回に分けて」食べることも、胃腸への負担を減らすための大切なポイントです。弱った胃腸の声に耳を傾け、優しく、そして賢く栄養を補給してあげることが、つらい夏バテから抜け出す鍵となります。
ニキビと違う？粉瘤の見分け方とセルフチェック
体にできるしこりや、おでき。その見た目から、つい「大きなニキビだろう」と自己判断してしまいがちですが、中には全く異なる原因でできる「粉瘤（ふんりゅう）」の可能性があります。ニキビと粉瘤は、治療法が全く異なるため、その違いを正しく見分けることが重要です。見分けるためのいくつかのポイントを知っておきましょう。まず、根本的な「原因」が異なります。ニキビは、毛穴が詰まり、皮脂が溜まってアクネ菌が増殖することで起こる「毛穴の炎症」です。一方、粉瘤は、皮膚の下に袋状の構造物ができ、その中に垢や皮脂が溜まっていく「良性の皮下腫瘍」です。次に、「見た目」にも特徴的な違いがあります。粉瘤の中心には、しばしば「開口部」と呼ばれる、小さな黒い点が見られることがあります。これは、皮膚と袋の中が繋がっている部分で、粉瘤のへそのようなものです。この黒い点は、ニキビには見られない、粉瘤の大きな特徴の一つです。また、大きさも異なります。ニキビは数ミリ程度のものがほとんどですが、粉瘤は放置すると数センチ、時には10センチ以上にまで大きくなることがあります。触った時の「感触」も違います。ニキビは炎症を起こすと赤く腫れて痛みを伴いますが、粉瘤は炎症を起こしていない限り、皮膚の下で弾力のある、コリコリとした塊として触れます。そして、決定的な違いが「内容物」です。ニキビを潰すと、黄色っぽい膿や皮脂の塊が出てきますが、粉瘤を強く圧迫すると、開口部から、ドロリとした、非常に臭い粥状の物質が出てくることがあります。この悪臭は、溜まった垢や皮脂が腐敗したもので、粉瘤の最大の特徴とも言えます。ただし、自分で無理に潰すのは絶対にやめてください。袋が破れて周囲に炎症が広がり、ひどく腫れあがってしまう原因となります。これらのセルフチェック項目、「中心に黒い点があるか」「徐々に大きくなっていないか」「悪臭を伴う内容物はないか」などを参考に、もし粉瘤が疑われる場合は、自己判断でいじらずに、必ず皮膚科や形成外科を受診するようにしましょう。
炎症性粉瘤の激痛。赤く腫れた時の正しい対処法
普段は痛みもなく、ただのしこりとして存在している粉瘤。しかし、ひとたび細菌感染などを起こすと、「炎症性粉瘤」という、非常に厄介な状態に変化します。これは、粉瘤の袋の中に細菌が侵入したり、袋が破れて内容物が周囲に漏れ出したりすることで、急激な炎症反応が引き起こされるものです。炎症性粉瘤になると、これまでとは比較にならない、つらい症状が現れます。まず、粉瘤があった部分が、短期間のうちに赤く、パンパンに腫れあがります。そして、触ると熱っぽく（熱感）、ズキズキとした拍動性の激しい痛みを伴うようになります。腫れが大きくなると、皮膚が薄くなって破れ、中から膿と血液が混じったような、悪臭を放つ液体が出てくることもあります。この状態になると、日常生活にも大きな支障をきたし、夜も眠れないほどの痛みに悩まされることも少なくありません。このような炎症性粉瘤の状態になってしまった時、最もやってはいけないのが「自分で潰そうとする」ことです。無理に圧迫すると、炎症をさらに悪化させ、周囲の組織にダメージを与えてしまう可能性があります。また、中途半端に膿を出しても、原因となっている袋が残っているため、すぐに再発してしまいます。炎症性粉瘤を疑ったら、一刻も早く医療機関（皮膚科または形成外科）を受診することが、正しい対処法です。病院では、まず炎症の程度に応じて、抗生物質の飲み薬や塗り薬が処方されます。そして、膿が大量に溜まっていて痛みが強い場合は、局所麻酔をした上で、皮膚を小さく切開し、中に溜まった膿を外に出す「切開排膿（せっかいはいのう）」という処置が行われます。この処置を行うと、圧力が下がるため、痛みは劇的に楽になります。ただし、この切開排膿は、あくまで炎症を鎮めるための応急処置です。炎症が治まった後も、原因である粉瘤の袋は体内に残っているため、いずれ再発する可能性が非常に高いです。そのため、炎症が完全に落ち着いた数ヶ月後に、袋そのものを完全に取り除くための、根治手術（摘出術）を改めて行うことが推奨されます。
粉瘤の手術とは？くり抜き法と切除法の違い
粉瘤の根本的な治療法は、原因となっている皮膚の下の袋状の構造物を、外科的に完全に取り除くことです。薬で粉瘤そのものを小さくしたり、消したりすることはできません。粉瘤の手術には、主に「切除法（せつじょほう）」と「くり抜き法（へそ抜き法）」という二つの方法があり、粉瘤の大きさや場所、炎症の有無などによって、どちらかの方法が選択されます。まず、従来から標準的な手術として行われているのが「切除法」です。これは、粉瘤の大きさに合わせて、皮膚を紡錘形（ラグビーボールのような形）に切開し、粉瘤の袋を周囲の組織から丁寧にはがして、袋ごと丸ごと摘出する方法です。袋を破らずに完全に取り除くことができるため、再発のリスクが最も低い、確実な方法とされています。摘出後は、皮膚を丁寧に縫い合わせ、約1週間後に抜糸を行います。傷跡は一本の線のようになりますが、形成外科的な技術を用いて、シワの方向に沿って切開するなど、できるだけ目立たないように工夫されます。比較的に大きな粉瘤や、過去に炎症を繰り返して周囲と癒着している粉瘤などに適しています。一方、近年、特に顔などの目立つ場所の小さな粉瘤に対して行われることが増えているのが「くり抜き法」です。これは、ディスポーザブルパンチという、円筒状のメスを使って、粉瘤の中心にある開口部（へそ）を含めて、直径数ミリの小さな円形の穴を開ける方法です。その小さな穴から、まず袋の中に溜まっている垢や皮脂を揉み出し、内容物を出して袋をしぼませます。その後、しぼんだ袋を、ピンセットなどを使って穴から丁寧に引きずり出して摘出します。くり抜き法の最大のメリットは、皮膚切開が非常に小さく済むため、傷跡がほとんど目立たないことです。また、通常は縫合しないか、しても一針程度なので、抜糸の必要がない場合も多く、患者さんの負担が少ないのが特徴です。ただし、袋を完全に取り切れない可能性が切除法に比べてわずかに高く、再発のリスクが若干あるとされています。どちらの手術法にも、メリットとデメリットがあります。医師とよく相談し、自分の粉瘤の状態や、傷跡に対する希望などを伝えた上で、最も適した手術法を選択することが大切です。