胸の片側に、突然、鋭い痛みが走る。この症状を聞いて、多くの人が思い浮かべるのが「肋間神経痛」と「肋軟骨炎」です。この二つは、どちらも命に別状のない良性の疾患でありながら、心臓の病気と間違えられるほどの強い痛みを引き起こす点で共通しています。症状も似ているため、混同されがちですが、その痛みの発生メカニズムには違いがあります。まず、「肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)」は、その名の通り、肋骨に沿って走っている「肋間神経」が、何らかの原因で刺激されることによって起こる「神経痛」の一種です。病名というよりは、症状名と言った方が正確です。原因は様々で、帯状疱疹ウイルスによるもの、背骨(胸椎)の変形やヘルニアによる神経の圧迫、あるいは原因不明の特発性のものもあります。痛み方は、「電気が走るような」「ピリピリ、チクチクする」といった、神経痛特有の鋭い痛みが、片側の肋骨に沿って帯状に現れるのが特徴です。一方、「肋軟骨炎(ろくなんこつえん)」は、胸骨と肋骨をつなぐ「肋軟骨」という部分に炎症が起きる病気です。これは、神経の痛みではなく、あくまで「炎症性の痛み」です。そのため、痛み方は「ズキンとする」「疼くような」鋭い痛みであり、痛みの場所も、胸の前面の、特定の肋軟骨の部位に限定されます。そして、この二つを見分ける上で、最も重要な違いが「圧痛点(押して痛い点)の有無と場所」です。肋軟骨炎は、炎症が起きている肋軟骨の部分を指で押すと、ピンポイントで強い痛みが再現されます。これに対して、肋間神経痛の場合は、特定の圧痛点ははっきりせず、神経の走行に沿って、広範囲に痛みを感じることが多いです。どちらの病気も、診断と治療を行うのは「整形外科」が中心となります。治療法も、基本的には消炎鎮痛剤の投与や、安静といった保存的治療が主体となる点で共通しています。しかし、帯状疱疹が原因の肋間神経痛の場合は、抗ウイルス薬による早期治療が必要となるため、皮膚科との連携も重要になります。似ているようで少し違う、この二つの痛み。正確な診断は、やはり専門医に委ねるのが一番です。
肋軟骨炎と肋間神経痛、似ている胸の痛みの違い