足の血管がボコボコと浮き出る下肢静脈瘤。「見た目が気になるけれど、痛みもそれほどないし、まあいいか」と、長年放置してしまっている方はいませんか。しかし、下肢静脈瘤は、単なる美容上の問題ではありません。これを放置し、足の血行不良が慢性化すると、皮膚に深刻なトラブルを引き起こし、生活の質を著しく低下させてしまうことがあるのです。その状態を、「慢性静脈不全」と呼びます。足の静脈に血液が長期間うっ滞すると、血管の中から水分や血液の成分(赤血球など)が、皮膚の組織へと漏れ出してきます。初期に現れるのが、「うっ滞性皮膚炎」です。主に、足首の内側のくるぶし周辺に、湿疹や強いかゆみ、赤みが生じます。皮膚は乾燥してカサカサになり、掻き壊すことで、さらに症状が悪化するという悪循環に陥ります。そして、漏れ出した赤血球に含まれるヘモグロビンが、皮膚組織の中で分解され、ヘモジデリンという色素に変わって沈着します。これにより、皮膚が茶色っぽく、黒ずんだように変色してしまう「色素沈着」が起こります。この状態になると、たとえ静脈瘤の治療をしても、色が完全に元に戻るのは難しくなります。さらに症状が進行すると、皮膚は栄養不足で非常に脆くなり、些細な刺激で傷つきやすくなります。そして、最終的には、皮膚の組織が壊死して、えぐれたような傷ができる「皮膚潰瘍(ひふかいよう)」に至ります。この潰瘍は、一度できてしまうと、非常に治りにくく、強い痛みを伴い、細菌感染のリスクも高まります。治療には、数ヶ月単位での根気強い処置が必要となり、患者さんに大きな苦痛と負担を強いることになります。このように、下肢静脈瘤は、ゆっくりと、しかし確実に皮膚を蝕んでいく病気なのです。皮膚に、かゆみや湿疹、色の変化といったサインが現れたら、それはもはや「様子を見ている段階」ではありません。皮膚が悲鳴を上げている証拠です。手遅れになる前に、血管外科や皮膚科を受診し、適切な治療を開始することが、あなたの足の健康を守るために何よりも重要です。
放置は危険!下肢静脈瘤が引き起こす皮膚トラブル