それは、ある日曜日の午後のことでした。ソファでくつろいでいた時、ふとした拍子に、左胸に「ズキン!」という、今まで経験したことのない鋭い痛みが走りました。まるで、胸の内側から太い針で突き刺されたかのよう。息を吸おうとすると、さらに激痛が走り、思わず呼吸を止めてしまいました。パニックになった私の頭をよぎったのは、「心筋梗塞」という最悪のシナリオでした。テレビで見た、胸を押さえて倒れる人のイメージが、現実のものとして迫ってきます。痛みは、断続的に、しかし容赦なく襲ってきます。冷や汗は出ない。吐き気もない。でも、とにかく痛い。このまま意識を失ったらどうしよう。私は、本気で救急車を呼ぶべきか迷いました。スマートフォンを手に取り、119をタップする寸前で、私はあることに気づきました。痛みが、特定の動きと連動しているのです。腕を上げようとすると痛む。体を少しひねると痛む。そして、恐る恐る、痛みの中心である左胸の肋骨の上あたりを指で押してみると、「そこだ!」と叫びたくなるほどの激痛が走りました。この「押すと痛い」という事実に、私は少しだけ冷静さを取り戻しました。「心臓の痛みなら、外から押しても痛くならないはずだ…」。そう思い直し、私は救急車の要請を思いとどまり、翌朝、一番で近所の整形外科を受診することにしました。整形外科の医師は、私の話を一通り聞くと、すぐに胸の触診を始めました。そして、私が昨日から何度も確認していた、あの痛みのポイントを指で押した瞬間、「痛いですか?ここですね」と、にこやかに言いました。レントゲンを撮っても、骨にも肺にも異常はなし。診断は、「典型的な肋軟-骨炎ですね。心配いりませんよ」というものでした。原因は、数日前に重い家具を動かしたことだろう、とのこと。あの時、パニックのまま救急車を呼んでいたら、大げさだと笑われたかもしれません。しかし、私は今でも、あの時の自分の判断は間違っていなかったと思っています。胸の痛みに関しては、最悪を想定して行動すること。そして、冷静に症状を観察し、適切な診療科を選ぶこと。その両方が、自分自身の命と安心を守るために、いかに重要であるかを、身をもって学んだ出来事でした。
私が肋軟骨炎の激痛で救急車を呼ぼうか迷った話