大人がかかるおたふくかぜが、なぜ特に男性にとって危険視されるのか。その最大の理由は、思春期以降の男性が感染した場合、約二割から三割という非常に高い確率で、「精巣炎(睾丸炎)」という深刻な合併症を引き起こすからです。この精巣炎は、激しい痛みと高熱を伴うだけでなく、将来の妊孕性(にんようせい)、つまり子供を作る能力に、永続的な影響を及ぼす可能性がある、非常に恐ろしい病気なのです。おたふくかぜのウイルス(ムンプスウイルス)は、耳下腺だけでなく、全身の腺組織や神経組織に感染しやすいという特徴を持っています。精巣もそのターゲットの一つです。耳下腺の腫れが始まってから、おおよそ四日から十日後くらいに、突然、片側あるいは両側の精巣が、赤くパンパンに腫れ上がり、触れることもできないほどの激しい痛みに襲われます。同時に、再び四十度近い高熱が出て、強い悪寒や吐き気を伴います。その痛みは、立っていることも、座っていることもできず、ただひたすらベッドの上でうずくまって耐えるしかない、とてつもない苦痛です。この急性期の症状は、一週間ほどで徐々に和らいでいきますが、問題はその後です。炎症によってダメージを受けた精巣は、数ヶ月かけて、徐々に萎縮(いしゅく)してしまうことがあります。精巣は、精子を作り出す非常に重要な臓器です。この精巣が萎縮すると、精子を作り出す能力が低下、あるいは完全に失われてしまうことがあるのです。もし、両側の精巣が共にひどい炎症を起こし、萎縮してしまった場合、それは「男性不妊」の直接的な原因となり得ます。これを「ムンプス精巣炎後無精子症」と呼びます。子供の頃に、おたふくかぜの予防接種を受けていれば、あるいは自然に感染して免疫を獲得していれば、防ぐことができたはずの後悔です。自分はかかったことがない、ワクチンも打っていないかもしれない。そう思う成人男性は、今からでもワクチン接種を検討する価値が十分にあります。それは、将来の自分の家族計画を守るための、最も確実な投資となるのです。