胸に痛みを感じた時、多くの人が「整形外科に行くべきか、それとも内科に行くべきか」という、重大な選択に直面します。この二つの診療科は、扱う病気の領域が全く異なるため、自分の症状の特徴を正しく見極めて、適切な科を選ぶことが、迅速な診断と安心に繋がります。まず、「整形外科」を受診すべきなのは、痛みに以下のような特徴がある場合です。痛みの場所がはっきりしている:「胸のこの一点が痛い」と、指で正確に場所を指し示すことができる。特定の動作で痛みが誘発・悪化する:体をひねる、深呼吸をする、腕を上げる、寝返りをうつ、といった特定の動きで痛みが強まる。圧痛がある:痛い部分を指で押すと、痛みが再現されたり、さらに強くなったりする。これらの特徴は、痛みの原因が、骨や軟骨、筋肉、神経といった「体の表面に近い運動器」にあることを示唆しており、肋軟骨炎や肋間神経痛、あるいは肋骨の疲労骨折などが考えられます。これらは、まさに整形外科の専門領域です。一方、「内科」、特に「循環器内科」や「呼吸器内科」の受診を最優先で考えるべきなのは、痛みに以下のような特徴がある場合です。痛みの場所が曖昧で、広範囲に感じる:「胸の真ん中あたりが、全体的に重苦しい」といった、漠然とした痛み。締め付けられる、圧迫されるような痛み:まるで重石を乗せられたかのような、鈍い圧迫感。痛み以外の症状を伴う:冷や汗、吐き気、息苦しさ、動悸、発熱、ひどい咳や痰などを伴う。これらのサインは、心筋梗塞や狭心症といった心臓の病気、あるいは肺炎や胸膜炎、気胸といった肺の病気など、命に関わる可能性のある「内臓の病気」を示唆しています。この場合は、一刻も早く内科的な診察と検査(心電図、レントゲン、血液検査など)を受ける必要があります。結論として、判断のポイントは「痛みと体の動きが連動しているか」です。動きと連動する表面的な痛みなら整形外科へ。内側から来るような、動きと関係ない痛みで、全身症状を伴うなら内科へ。もし、どちらか判断に迷う場合は、まずは内科を受診して、危険な内臓の病気がないことを確認してもらうのが、最も安全なアプローチと言えるでしょう。