天井が、床が、視界に入るもの全てが、まるで高速のメリーゴーラウンドに乗っているかのように、ぐるぐると回り続ける。あまりの気持ち悪さに、胃がひっくり返るような吐き気がこみ上げ、トイレに駆け込む。この、経験した者にしかわからない、地獄のような症状の組み合わせ。その原因の多くは、私たちの「耳」の、さらに奥深くにある「内耳」という小さな器官のトラブルにあります。ここでは、激しい回転性めまいと吐き気を引き起こす、代表的な三つの耳の病気について解説します。1.良性発作性頭位めまい症(BPPV)めまいの原因として最も頻度が高い病気です。内耳にある「耳石(じせき)」という、炭酸カルシウムの小さな粒が、何らかの拍子に本来の位置から剥がれ落ち、体の回転を感知する三半規管の中に入り込んでしまうことで起こります。寝返りをうった時、ベッドから起き上がった時、あるいは上を向いた時など、特定の頭の位置の変化によって、剥がれた耳石が三半規管の中を転がり、リンパの流れを乱すことで、数秒から数十秒間の、非常に激しい回転性めまいと吐き気を引き起こします。めまいは短時間で治まりますが、頭を動かすたびに再発するのが特徴です。2.メニエール病内耳が、リンパ液の過剰な産生によって「水ぶくれ」の状態になってしまう病気です。その特徴は、激しい回転性めまいと吐気に加えて、「難聴」や「耳鳴り」、「耳の閉塞感(詰まった感じ)」といった、聴覚に関する症状を伴うことです。めまいの発作は、数十分から数時間と、比較的長く続く傾向があり、この発作を何度も繰り返します。ストレスや過労が引き金になることが多いと言われています。3.前庭神経炎(ぜんていしんけいえん)風邪などのウイルス感染をきっかけに、内耳と脳を結ぶ「前庭神経」に炎症が起きる病気です。ある日突然、前触れもなく、非常に激しい回転性めまいと吐き気が始まり、それが数日間、寝ても覚めても持続します。あまりの激しさに、救急車で運ばれることも少なくありません。難聴や耳鳴りといった聴覚症状は伴わないのが、メニエール病との大きな違いです。これらの病気は、いずれも「耳鼻咽喉科」が専門です。治療法もそれぞれ異なり、BPPVであれば耳石を元の位置に戻す理学療法(エプリー法など)、メニエール病や前庭神経炎であれば、薬物療法が中心となります。正確な診断が、適切な治療への第一歩です。