アルコール性肝障害と診断された時、その治療法は、実は非常にシンプルかつ、最も困難なものから始まります。それは、原因となっているアルコールを断つこと、すなわち「禁酒」です。どんなに優れた薬や治療法も、飲酒を続けながらでは全く効果がありません。禁酒こそが、この病気に対する唯一絶対の、そして最も効果的な治療法なのです。病気の進行度によって、禁酒による回復の度合いは異なります。肝臓に脂肪がたまっているだけの「アルコール性脂肪肝」の段階であれば、完全な禁酒、あるいは厳しい節酒を数ヶ月間続けることで、肝機能の数値は改善し、肝臓は健康な状態に回復することが期待できます。しかし、炎症を伴う「アルコール性肝炎」や、線維化が進んだ「アルコール性肝線維症」の段階になると、禁酒をしても、完全な回復は難しくなります。それでも、禁酒をすることで、それ以上の病状の悪化を防ぎ、肝硬変や肝がんへと進行するリスクを大幅に減らすことができます。そして、残念ながら「肝硬変」まで進行してしまうと、硬くなった肝臓の組織が元に戻ることはありません。この段階での禁酒の目的は、残された肝機能をできるだけ長く維持し、腹水や黄疸、食道静脈瘤の破裂といった、命に関わる合併症を防ぐことにあります。禁酒と並行して、栄養バランスの取れた食事を摂る「栄養療法」も非常に重要です。特に、タンパク質やビタミン、ミネラルが不足しがちになるため、医師や管理栄養士の指導のもと、適切な食事管理を行います。しかし、頭では「禁酒しなければ」とわかっていても、長年の飲酒習慣を自分の意志だけで断ち切るのは、想像以上に困難です。特に、アルコール依存症を合併している場合は、禁酒によって、手の震えや発汗、幻覚といった、つらい離脱症状が現れることもあります。このような場合は、意志の力だけで解決しようとせず、アルコール依存症の専門医療機関(精神科や心療内科)に相談することが不可欠です。専門家によるカウンセリングや、自助グループ(断酒会など)への参加、あるいは離脱症状を和らげるための薬物療法など、様々なサポートを受けることができます。アルコール性肝障害の治療は、孤独な戦いではありません。医療機関や専門家と連携し、正しいサポートを受けながら、一歩ずつ回復への道を歩んでいくことが大切なのです。