健康知識と医療の基本をわかりやすく解説

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  • 肋軟骨炎の痛み、その特徴と原因を探る

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    肋軟骨炎は、その特徴的な痛み方から、心臓の病気と間違えられやすいですが、その原因とメカニズムは全く異なります。この病気について正しく理解することは、不必要な不安を取り除き、適切な対処法を見つけるために役立ちます。肋軟骨炎の痛みの最大の特徴は、前述の通り、「局所性」と「再現性」です。痛みは、胸の真ん中にある胸骨の左右どちらかの、第二から第五肋軟骨あたりに発生することがほとんどです。そして、その痛い部分を指で軽く押すだけで、「ズキッ」とした鋭い痛みが再現されます。この「押すと痛い」という圧痛の存在が、診断における最も重要な手がかりとなります。また、深呼吸、咳、くしゃみ、寝返り、腕を伸ばすといった、胸郭を動かす動作によって、痛みが誘発されたり、悪化したりするのも、肋軟骨炎に典型的な症状です。痛みは、数週間から数ヶ月続くこともありますが、基本的には自然に治癒していく良性の病気であり、後遺症を残すこともありません。では、なぜこのような炎症が起きてしまうのでしょうか。実は、肋軟骨炎の明確な原因は、まだ完全には解明されていません。しかし、いくつかの要因が関わっていると考えられています。最も多いとされるのが、「物理的な負担」です。例えば、激しい咳が長く続いた後や、ゴルフのスイング、あるいは重い荷物を持ち上げるなど、胸部に繰り返し負担がかかるような動作が、肋軟骨に微細な損傷や炎症を引き起こすきっかけとなると考えられています。また、猫背などの「不良姿勢」も、胸郭の動きを不自然にし、特定の肋軟骨に持続的なストレスをかける原因となり得ます。その他、稀ではありますが、ウイルス感染や、胸部の打撲などの外傷が引き金となることもあります。特に、若い女性に多く見られる傾向があることも知られていますが、その理由ははっきりしていません。原因が特定できないことも多いですが、いずれにせよ、胸部に過度な負担をかけないように、安静を保つことが、回復への基本的なアプローチとなります。

  • 肝臓をいたわる食事とは?アルコール性肝障害の栄養療法

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    アルコール性肝障害の治療の根幹は「禁酒」ですが、それと同じくらい重要になるのが、傷ついた肝臓を回復させ、再生を促すための「栄養療法」です。長年の飲酒習慣によって、体は栄養バランスが大きく崩れ、特に肝臓の働きに不可欠な栄養素が枯渇している状態にあります。適切な食事を摂ることは、回復を早め、合併症を防ぐ上で、薬にも勝る効果を発揮します。まず、最も意識すべきなのは、「十分なエネルギーとタンパク質の確保」です。アルコール性肝障害の患者さんは、アルコール自体からカロリーを摂取している一方で、食事からの栄養摂取が疎かになり、実は「栄養失調」に陥っていることが少なくありません。肝臓が再生するためには、その材料となる良質なタンパク質が不可欠です。肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などを、毎食バランス良く取り入れることを心がけましょう。ただし、肝硬変まで進行し、肝性脳症のリスクがある場合は、タンパク質の摂取制限が必要になることもあるため、必ず医師や管理栄養士の指示に従ってください。次に、アルコールの分解や、肝臓の代謝機能に大量に消費されてしまう「ビタミンとミネラル」を、積極的に補給することも重要です。特に、ビタミンB群(豚肉、レバー、うなぎ、玄米など)、亜鉛(牡蠣、牛肉、チーズなど)、そして抗酸化作用のあるビタミンC(果物、野菜)やビタミンE(ナッツ類、植物油)は、意識して摂りたい栄養素です。これらの栄養素をバランス良く摂取するためには、特定の食品に偏るのではなく、多様な食材を使った、彩り豊かな食事を目指すのが良いでしょう。また、「塩分の制限」も、特に肝硬変で腹水やむくみがある場合には、非常に重要となります。塩分の摂りすぎは、体内に水分を溜め込み、症状を悪化させる原因となります。出汁の旨味や、香辛料、香味野菜(生姜、ニンニク、ハーブなど)を上手に活用し、薄味でも美味しく食べられる工夫をしましょう。加工食品やインスタント食品は、塩分が多く含まれているため、できるだけ避けるのが賢明です。傷ついた肝臓をいたわる食事は、決して特別なものではありません。一日三食、主食・主菜・副菜の揃った、バランスの良い食事を規則正しく摂ること。この当たり前の食生活を取り戻すことが、あなたの肝臓を再生させる、何よりの力となるのです。

  • 原因不明の熱が続く…「不明熱」で頼りになる診療科とは

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    風邪でもないのに、何週間も、あるいは何ヶ月も、微熱がだらだらと続く。あるいは、原因がわからないまま、高い熱が出たり下がったりを繰り返す。このように、一般的な検査を行っても原因が特定できない、三週間以上続く三十八度以上の発熱を、医学的には「不明熱(FUO: Fever of Unknown Origin)」と呼びます。この状態は、患者さんにとって、身体的なつらさはもちろん、「何か重い病気なのではないか」という、精神的な不安が非常に大きいものです。ドクターショッピングを繰り返し、途方に暮れてしまう方も少なくありません。不明熱の原因は、大きく分けて三つのカテゴリーに分類されます。一つ目は、「感染症」です。結核や、心臓の弁に細菌が付着する感染性心内膜炎、あるいは腹腔内膿瘍(お腹の中に膿がたまる病気)など、通常の診察では見つけにくい、特殊な、あるいは体の深い場所にある感染症が原因となります。二つ目は、「悪性腫瘍(がん)」です。特に、悪性リンパ腫や白血病といった血液のがん、あるいは腎臓がんなどが、発熱を主症状として現れることがあります。そして、三つ目が「膠原病(こうげんびょう)・自己免疫疾患」です。関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)、血管炎など、免疫システムが誤って自分自身の体を攻撃してしまう病気が、慢性的な炎症を引き起こし、発熱の原因となります。では、この複雑で難解な不明熱を、どこに相談すれば良いのでしょうか。このような、診断がついていない、複数の領域にまたがる可能性のある症状の診断を専門とするのが、「総合診療科(総合内科)」です。総合診療科医は、まさに「病気の探偵」のような存在です。患者さんの話を詳細に聞き、全身をくまなく診察し、膨大な医学的知識の中から、可能性のある病気をリストアップし、それを一つひとつ、必要な検査を組み立てて潰していく、という診断プロセスを得意としています。そして、原因が特定できた段階で、最も適切な専門家へと繋いでくれます。もし、原因が膠原病である可能性が高いと判断されれば、「リウマチ・膠原病内科」が専門の診療科となります。原因不明の熱に悩んだら、やみくもに病院を渡り歩くのではなく、まずは「総合診療科」の扉を叩いてみてください。そこが、診断への確かな入り口となるはずです。

  • 治療の第一歩は「禁酒」、アルコール性肝障害との向き合い方

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    アルコール性肝障害と診断された時、その治療法は、実は非常にシンプルかつ、最も困難なものから始まります。それは、原因となっているアルコールを断つこと、すなわち「禁酒」です。どんなに優れた薬や治療法も、飲酒を続けながらでは全く効果がありません。禁酒こそが、この病気に対する唯一絶対の、そして最も効果的な治療法なのです。病気の進行度によって、禁酒による回復の度合いは異なります。肝臓に脂肪がたまっているだけの「アルコール性脂肪肝」の段階であれば、完全な禁酒、あるいは厳しい節酒を数ヶ月間続けることで、肝機能の数値は改善し、肝臓は健康な状態に回復することが期待できます。しかし、炎症を伴う「アルコール性肝炎」や、線維化が進んだ「アルコール性肝線維症」の段階になると、禁酒をしても、完全な回復は難しくなります。それでも、禁酒をすることで、それ以上の病状の悪化を防ぎ、肝硬変や肝がんへと進行するリスクを大幅に減らすことができます。そして、残念ながら「肝硬変」まで進行してしまうと、硬くなった肝臓の組織が元に戻ることはありません。この段階での禁酒の目的は、残された肝機能をできるだけ長く維持し、腹水や黄疸、食道静脈瘤の破裂といった、命に関わる合併症を防ぐことにあります。禁酒と並行して、栄養バランスの取れた食事を摂る「栄養療法」も非常に重要です。特に、タンパク質やビタミン、ミネラルが不足しがちになるため、医師や管理栄養士の指導のもと、適切な食事管理を行います。しかし、頭では「禁酒しなければ」とわかっていても、長年の飲酒習慣を自分の意志だけで断ち切るのは、想像以上に困難です。特に、アルコール依存症を合併している場合は、禁酒によって、手の震えや発汗、幻覚といった、つらい離脱症状が現れることもあります。このような場合は、意志の力だけで解決しようとせず、アルコール依存症の専門医療機関(精神科や心療内科)に相談することが不可欠です。専門家によるカウンセリングや、自助グループ(断酒会など)への参加、あるいは離脱症状を和らげるための薬物療法など、様々なサポートを受けることができます。アルコール性肝障害の治療は、孤独な戦いではありません。医療機関や専門家と連携し、正しいサポートを受けながら、一歩ずつ回復への道を歩んでいくことが大切なのです。

  • なぜ女性に多い?冷房病と筋肉量・ホルモンの関係

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    オフィスや電車の中で、男性は「ちょうど良い」と感じている冷房設定でも、女性は「寒すぎる」と、ひざ掛けやカーディガンが手放せない。このような光景は、夏の日常茶飯事です。実際に、冷房病の症状を訴えるのは、男性よりも女性の方が圧倒的に多いと言われています。なぜ、女性は冷房の冷えに、これほど弱いのでしょうか。その背景には、男女の身体的な構造の違いと、女性特有のホルモンバランスが、深く関わっています。まず、最も大きな理由が「筋肉量の違い」です。筋肉は、体の中で最も多くの熱を産生する、いわば「自家発電所」のような組織です。一般的に、女性は男性に比べて筋肉量が少なく、脂肪の割合が多い体つきをしています。そのため、自分で熱を作り出す能力が低く、一度体が冷えてしまうと、なかなか温まりにくいのです。また、皮下脂肪は、一度冷えると、断熱材のように働いて、温まりにくいという性質も持っています。次に、「女性ホルモンの影響」も無視できません。女性の体は、月経周期によって、エストロゲンとプロゲステロンという二つの女性ホルモンのバランスが、常に変動しています。このホルモンバランスは、自律神経の働きと密接にリンクしているため、ホルモンの波が、自律神経のバランスを揺さぶりやすいのです。特に、生理前や更年期など、ホルモンバランスが大きく乱れる時期は、自律神経の機能も不安定になり、体温調節がうまくいかなくなって、冷房病の症状が出やすくなります。さらに、「ファッション」も一因です。夏場、女性は、スカートやサンダル、ノースリーブといった、肌の露出が多い服装をすることが多く、男性に比べて、冷気が直接肌に当たりやすいという側面もあります。体を締め付けるような下着や衣服も、血行を妨げ、冷えを助長する原因となります。このように、熱産生能力の低さ、ホルモンバランスの揺らぎ、そして服装といった、複数の要因が重なることで、女性は男性よりも、はるかに冷房病のリスクに晒されやすいのです。夏の冷え対策は、女性にとって、快適に過ごすためだけでなく、健康を維持するための、重要なテーマと言えるでしょう。

  • 冷房病で病院へ、何科を受診すれば良いのか

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    頭痛、めまい、倦怠感、肩こり…。冷房病の症状は多岐にわたり、一つひとつの症状だけを見ると、どの診療科へ行けば良いのか、判断に迷ってしまうことがよくあります。また、「病気ではないから」と、病院へ行くこと自体をためらってしまう方も少なくありません。しかし、つらい症状が続く場合は、その背後に別の病気が隠れている可能性も否定できません。適切な診療科を選び、専門家に相談することが大切です。まず、様々な症状が複合的に現れており、どの症状が主役なのか自分でもよくわからない、という場合は、「総合診療科」や「一般内科」を最初に受診するのが良いでしょう。医師は、全身の状態を総合的に診察し、症状の裏に、貧血や甲状腺機能の低下、あるいは心臓の病気といった、器質的な疾患が隠れていないかを、血液検査などでスクリーニングしてくれます。ここで、「特に身体的な異常はない」と診断され、症状が自律神経の乱れによるものと判断された場合、そこから、より専門的な診療科へと繋がっていくことになります。もし、めまいや耳鳴りが特に強い場合は、「耳鼻咽喉科」へ。動悸や息切れが気になる場合は、「循環器内科」へ。頭痛がひどい場合は、「神経内科」へ。そして、月経不順や生理痛の悪化など、婦人科系の症状が顕著な場合は、「婦人科」が相談先となります。これらの専門科で、それぞれの臓器に異常がないことを確認した上で、それでもなお、原因不明の不調や、気分の落ち込み、不安感が続く場合。その時に、最終的な受け皿となるのが「心療内科」です。心療内科は、ストレスなどが原因で体に症状が現れる「心身症」の専門家であり、冷房病(自律神経失調症)の治療を最も得意とする診療科の一つです。カウンセリングや、自律神経調整薬、漢方薬などを用いて、心と体の両面からアプローチしてくれます。つらい症状を一人で抱え込まず、まずは内科を窓口として、専門家への相談を始めること。それが、改善への第一歩です。

  • 大人がかかるおたふくかぜ、子供の病気と侮るな

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    「おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)」と聞けば、多くの人が、両方の頬をパンパンに腫らした子供の姿を思い浮かべるでしょう。確かに、その名の通り、子供の頃にかかる代表的な感染症の一つです。しかし、この病気の原因であるムンプスウイルスに、抗体を持たない大人が感染した場合、その症状は子供のそれとは比べ物にならないほど重く、そして深刻な合併症を引き起こす危険性をはらんでいます。子供の頃にかかった記憶がない、あるいは予防接種を受けたかどうかわからない。そんな大人は、決して「子供の病気だから」と侮ってはいけません。大人がおたふくかぜに感染した場合、まず特徴的なのが「高熱」です。子供の場合は微熱で済むことも多いですが、大人は三十九度から四十度近い高熱が、数日間続くことが少なくありません。この高熱に伴い、インフルエンザに似た、激しい頭痛や関節痛、そして全身を襲う強烈な倦怠感に苦しめられます。そして、おたふくかぜの代名詞とも言える「耳下腺の腫れと痛み」も、大人の方がはるかに強く現れる傾向があります。耳の下から顎にかけて、片側あるいは両側が大きく腫れ上がり、顔の形が変わってしまうほどです。この腫れは、単に見た目の問題だけではありません。口を開けたり、物を噛んだり、あるいは酸っぱいものを想像しただけで、耳の下に激痛が走ります。食事を摂ることさえ困難になり、体力を著しく消耗させてしまうのです。しかし、大人がおたふくかぜにかかった時の本当の恐怖は、その先に待ち受ける「合併症」のリスクの高さにあります。ウイルスが全身に広がることで、髄膜炎や脳炎、そして男性の場合は精巣炎、女性の場合は卵巣炎といった、深刻な病気を引き起こす可能性が、子供に比べて格段に高くなるのです。大人のおたふくかぜは、単なる子供の風邪の延長線上にある病気ではありません。時に、人生を左右するほどの後遺症を残しかねない、警戒すべき感染症であるということを、強く認識しておく必要があります。

  • 女性の発熱、内科か婦人科か?月経周期や下腹部痛がヒント

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    女性が発熱した時、その原因は一般的な風邪や感染症だけとは限りません。女性特有の体の仕組みや、婦人科系の病気が、熱の引き金となっている可能性も、常に頭の片隅に置いておく必要があります。特に、発熱に加えて「下腹部痛」や「おりものの異常」といった症状が伴う場合は、「婦人科」の受診を検討すべき重要なサインです。女性の発熱の原因として、まず考えられるのが「骨盤内炎症性疾患(PID)」です。これは、子宮や卵管、卵巣といった、骨盤内の臓器に細菌が感染して炎症を起こす病気の総称です。クラミジアや淋菌といった性感染症が原因となることも多く、発熱や下腹部痛、そして膿のような異常なおりものが見られます。放置すると、不妊や子宮外妊娠の原因となることもあるため、早期に婦人科で抗生物質による適切な治療を受けることが不可欠です。また、腎盂腎炎と症状が似ていますが、「卵巣炎」や「卵管炎」も、高熱と片側の下腹部痛を引き起こします。さらに、月経周期に関連した発熱もあります。排卵の時期に、一時的に体温が上昇することはよく知られていますが、これは通常、微熱程度です。しかし、月経前になると、ホルモンバランスの変動から、風邪でもないのに微熱や倦怠感が出る「月経前症候群(PMS)」の症状に悩まされる人もいます。また、妊娠中に発熱した場合は、自己判断は絶対に禁物です。胎児への影響を考慮し、安全な薬を処方してもらう必要があるため、まずは必ずかかりつけの「産婦人科」に相談してください。では、内科と婦人科、どちらを受診すれば良いか迷った時は、どうすれば良いのでしょうか。その判断のヒントは、やはり「付随する症状」です。咳や喉の痛みといった上気道症状がメインであれば内科へ。下腹部痛やおりものの異常、不正出血といった、明らかに婦人科系の症状が伴う場合は婦人科へ。もし、どちらの症状も同じくらい強く、判断に迷う場合は、まずは内科を受診し、全身的な診察を受けた上で、必要であれば婦人科を紹介してもらう、という流れが安心です。女性の体は複雑です。発熱というサインを、多角的な視点で捉えることが大切です。

  • 下肢静脈瘤の最新治療、切らないレーザー治療とは

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    かつて、下肢静脈瘤の根本的な治療と言えば、足の付け根などを切開し、逆流の原因となっている静脈を引き抜く「ストリッピング手術」が主流でした。これは、確実な治療法である一方、体への負担が大きく、数日間の入院が必要で、術後の痛みや皮下出血も強いというデメリットがありました。しかし、近年、下肢静脈瘤の治療は劇的に進化しています。その中心となっているのが、皮膚を切らずに、体への負担を最小限に抑えて行う「血管内治療」です。その代表格が、「血管内レーザー焼灼術(しょうしゃくじゅつ)」です。これは、どのような治療法なのでしょうか。血管内レーザー焼灼術は、まず、超音波(エコー)で逆流している静脈の位置を確認しながら、膝のあたりに注射針ほどの細い針を刺します。そして、その針穴から、レーザーファイバーという、髪の毛ほどの細さの光ファイバーを、静脈の中に挿入していきます。ファイバーの先端を、逆流の起点である足の付け根まで進めた後、局所麻酔(TLA麻酔)を静脈の周囲に十分に注入します。この麻酔は、痛みを抑えるだけでなく、周囲の組織を熱から守る重要な役割も果たします。準備が整ったら、レーザーを照射しながら、ファイバーをゆっくりと引き抜いてきます。すると、レーザーの熱エネルギーによって、静脈の壁が内側から焼き固められ、完全に閉塞します。血流がなくなった静脈は、その後、数ヶ月かけて、徐々に体に吸収されていきます。逆流の元栓が閉められることで、ボコボコと浮き出ていた静脈瘤も、自然としぼんで目立たなくなります。この治療の最大のメリットは、皮膚を切開しないため、傷跡がほとんど残らず、術後の痛みも非常に少ないことです。局所麻酔で行えるため、治療時間は三十分から一時間程度で、術後すぐに歩いて帰宅できる「日帰り治療」が可能です。同様の原理で、レーザーの代わりに高周波(ラジオ波)を用いる「血管内高周波焼灼術」もあり、どちらも保険適用で受けることができます。この「切らない治療」の登場により、下肢静脈瘤の治療は、誰もが気軽に、そして安心して受けられるものへと大きく変わったのです。

  • それは冷房病かも?夏に潜む原因不明の不調の正体

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    夏になると、決まって体がだるい。食欲がなく、頭痛や肩こりがひどくなる。室内は涼しいはずなのに、手足は氷のように冷えている。多くの人が「夏バテ」の一言で片付けてしまう、これらの原因不明の不調。その正体は、もしかしたら「冷房病(クーラー病)」かもしれません。冷房病とは、正式な病名ではなく、冷房が効いた環境と、屋外の猛暑との間の「急激な温度差」に、私たちの体が適応できなくなることで引き起こされる、自律神経の不調を指す俗称です。人間の体は、体温を一定に保つために、自律神経が絶えず働いています。暑い時には、血管を広げて熱を逃がし、汗をかいて体温を下げようとします。逆に、寒い時には、血管を収縮させて熱が逃げるのを防ぎ、体を震わせて熱を産生します。この精巧な体温調節システムは、通常、五度程度の温度差であれば、スムーズに対応することができます。しかし、現代の夏は、屋外が三十五度を超える猛暑である一方、オフィスや電車、商業施設の中は二十五度前後と、その温度差は十度以上にも及びます。この過酷な環境に、私たちの体は日に何度も晒されることになるのです。暑い屋外から、急に冷たい室内へ。そしてまた、暑い屋外へ。この急激な温度変化に対応するため、自律神経は、血管の収縮と拡張を、まるでパニックのように、めまぐるしく繰り返さなければなりません。この過剰な働きによって、自律神経は徐々に疲弊し、やがて正常に機能しなくなってしまいます。その結果、体温調節がうまくいかなくなり、血行不良や、ホルモンバランスの乱れを引き起こし、頭痛、倦怠感、冷え、肩こり、食欲不振、不眠、さらには気分の落ち込みといった、心と体にわたる、ありとあらゆる不調が現れるのです。冷房病は、単なる夏の疲れではありません。それは、現代社会が作り出した、過酷な環境に対する、私たちの体の悲鳴なのです。