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足の血管がボコボコ、下肢静脈瘤は何科へ行くべきか
ふと自分の足を見た時、ふくらはぎの血管が、ミミズのように、あるいはコブのように、青くボコボコと浮き出ていることに気づく。あるいは、夕方になると足がパンパンにむくんで重くだるい、寝ている間によく足がつる(こむら返り)。これらの症状は、中高年の女性に特に多く見られる「下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)」の典型的なサインです。見た目の問題だけでなく、不快な症状を伴うこの病気。いざ病院で相談しようにも、「一体、何科を受診すれば良いのだろう?」と、多くの人がその入り口で迷ってしまいます。この問いに対する最も的確な答えは、「血管外科」あるいは「心臓血管外科」です。血管外科は、その名の通り、動脈や静脈といった「血管」の病気を専門に診断・治療する診療科です。下肢静脈瘤は、足の静脈にある、血液の逆流を防ぐための「弁」が、加齢や妊娠・出産、長時間の立ち仕事などによって壊れてしまい、血液が心臓に戻れずに足に溜まってしまうことで起こる、血管の病気です。血管外科医は、ドップラー血流計や超音波(エコー)検査といった専門的な機器を用いて、足の静脈のどの部分で血液が逆流しているのか、その状態を正確に診断します。そして、その診断結果と患者さんの症状、希望に応じて、弾性ストッキングによる圧迫療法、硬化療法(薬剤を注入して血管を固める)、あるいはレーザーや高周波による血管内治療、さらにはストリッピング手術といった、様々な治療の選択肢の中から、最適なものを提供してくれます。しかし、全ての病院に血管外科があるわけではありません。その場合は、まず「皮膚科」や「形成外科」に相談するのも一つの方法です。皮膚科や形成外科でも、下肢静脈瘤の診断や、硬化療法などの一部の治療を行っていることがあります。また、「一般外科」でも対応可能な場合があります。重要なのは、自己判断で「年のせいだから」と放置しないこと。まずは、これらの診療科のいずれかを訪れ、専門家による正しい診断を受けることが、つらい症状から解放されるための、最も確実な第一歩となるのです。
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放置は危険!下肢静脈瘤が引き起こす皮膚トラブル
足の血管がボコボコと浮き出る下肢静脈瘤。「見た目が気になるけれど、痛みもそれほどないし、まあいいか」と、長年放置してしまっている方はいませんか。しかし、下肢静脈瘤は、単なる美容上の問題ではありません。これを放置し、足の血行不良が慢性化すると、皮膚に深刻なトラブルを引き起こし、生活の質を著しく低下させてしまうことがあるのです。その状態を、「慢性静脈不全」と呼びます。足の静脈に血液が長期間うっ滞すると、血管の中から水分や血液の成分(赤血球など)が、皮膚の組織へと漏れ出してきます。初期に現れるのが、「うっ滞性皮膚炎」です。主に、足首の内側のくるぶし周辺に、湿疹や強いかゆみ、赤みが生じます。皮膚は乾燥してカサカサになり、掻き壊すことで、さらに症状が悪化するという悪循環に陥ります。そして、漏れ出した赤血球に含まれるヘモグロビンが、皮膚組織の中で分解され、ヘモジデリンという色素に変わって沈着します。これにより、皮膚が茶色っぽく、黒ずんだように変色してしまう「色素沈着」が起こります。この状態になると、たとえ静脈瘤の治療をしても、色が完全に元に戻るのは難しくなります。さらに症状が進行すると、皮膚は栄養不足で非常に脆くなり、些細な刺激で傷つきやすくなります。そして、最終的には、皮膚の組織が壊死して、えぐれたような傷ができる「皮膚潰瘍(ひふかいよう)」に至ります。この潰瘍は、一度できてしまうと、非常に治りにくく、強い痛みを伴い、細菌感染のリスクも高まります。治療には、数ヶ月単位での根気強い処置が必要となり、患者さんに大きな苦痛と負担を強いることになります。このように、下肢静脈瘤は、ゆっくりと、しかし確実に皮膚を蝕んでいく病気なのです。皮膚に、かゆみや湿疹、色の変化といったサインが現れたら、それはもはや「様子を見ている段階」ではありません。皮膚が悲鳴を上げている証拠です。手遅れになる前に、血管外科や皮膚科を受診し、適切な治療を開始することが、あなたの足の健康を守るために何よりも重要です。
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私が肋軟骨炎の激痛で救急車を呼ぼうか迷った話
それは、ある日曜日の午後のことでした。ソファでくつろいでいた時、ふとした拍子に、左胸に「ズキン!」という、今まで経験したことのない鋭い痛みが走りました。まるで、胸の内側から太い針で突き刺されたかのよう。息を吸おうとすると、さらに激痛が走り、思わず呼吸を止めてしまいました。パニックになった私の頭をよぎったのは、「心筋梗塞」という最悪のシナリオでした。テレビで見た、胸を押さえて倒れる人のイメージが、現実のものとして迫ってきます。痛みは、断続的に、しかし容赦なく襲ってきます。冷や汗は出ない。吐き気もない。でも、とにかく痛い。このまま意識を失ったらどうしよう。私は、本気で救急車を呼ぶべきか迷いました。スマートフォンを手に取り、119をタップする寸前で、私はあることに気づきました。痛みが、特定の動きと連動しているのです。腕を上げようとすると痛む。体を少しひねると痛む。そして、恐る恐る、痛みの中心である左胸の肋骨の上あたりを指で押してみると、「そこだ!」と叫びたくなるほどの激痛が走りました。この「押すと痛い」という事実に、私は少しだけ冷静さを取り戻しました。「心臓の痛みなら、外から押しても痛くならないはずだ…」。そう思い直し、私は救急車の要請を思いとどまり、翌朝、一番で近所の整形外科を受診することにしました。整形外科の医師は、私の話を一通り聞くと、すぐに胸の触診を始めました。そして、私が昨日から何度も確認していた、あの痛みのポイントを指で押した瞬間、「痛いですか?ここですね」と、にこやかに言いました。レントゲンを撮っても、骨にも肺にも異常はなし。診断は、「典型的な肋軟-骨炎ですね。心配いりませんよ」というものでした。原因は、数日前に重い家具を動かしたことだろう、とのこと。あの時、パニックのまま救急車を呼んでいたら、大げさだと笑われたかもしれません。しかし、私は今でも、あの時の自分の判断は間違っていなかったと思っています。胸の痛みに関しては、最悪を想定して行動すること。そして、冷静に症状を観察し、適切な診療科を選ぶこと。その両方が、自分自身の命と安心を守るために、いかに重要であるかを、身をもって学んだ出来事でした。
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あなたは大丈夫?アルコール性肝障害の危険なサイン
肝臓は「沈黙の臓”器」と呼ばれ、その機能がかなり低下するまで、はっきりとしたサインを出さないことで知られています。そのため、アルコール性肝障害は、気づかないうちに進行していることが少なくありません。しかし、注意深く自分の体の変化に耳を澄ませば、肝臓が発するSOSのサインを早期にキャッチすることができます。以下に挙げる症状に、もし心当たりがあるなら、それは肝臓からの危険な警告かもしれません。まず、初期段階である「アルコール性脂肪肝」では、ほとんど自覚症状はありません。しかし、人によっては「なんとなく体がだるい」「疲れやすい」「右の上腹部に重い感じがする」といった、漠然とした不調を感じることがあります。多くの人は、これを単なる飲みすぎや二日酔い、あるいは年齢のせいだと片付けてしまいがちです。病気が「アルコール性肝炎」へと進行すると、症状はより明確になります。「食欲が全くない」「吐き気や嘔吐がある」「微熱が続く」「明らかに体がだるくて、仕事に集中できない」。これらの症状は、風邪や胃腸炎と間違えられやすいですが、過度な飲酒習慣がある場合は、肝臓の炎症を疑う必要があります。さらに病状が悪化し、「肝硬変」の領域に足を踏み入れると、もはや見過ごすことのできない、深刻なサインが現れます。黄疸(おうだん):白目や皮膚が黄色っぽくなる。これは、肝臓がビリルビンという黄色い色素を処理できなくなるために起こります。腹水(ふくすい):お腹に水がたまり、カエルのようにパンパンに膨らむ。手のひらの赤み(手掌紅斑):手のひら、特に親指と小指の付け根が不自然に赤くなる。クモ状血管腫:胸や肩、首のあたりに、クモの足のような形をした、赤い血管の浮き上がりが現れる。むくみ(浮腫):足のすねなどを指で押すと、跡が残るほどむくむ。出血傾向:鼻血が出やすい、歯茎から出血する、些細なことで青あざができる。これらの症状は、肝臓の機能がもはや限界に達していることを示しています。一つでも当てはまる場合は、絶対に放置せず、速やかに消化器内科や肝臓内科などの専門医を受診してください。早期の発見と、何よりも禁酒が、あなたの未来を守る鍵となります。
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発熱したらまず何科?最初に選ぶべき診療科の基本
ある日突然、体に熱っぽさを感じ、体温計の数字が三十八度を超えている。そんな時、多くの人が「病院へ行こう」と考えますが、同時に「一体、何科を受診すれば良いのだろう?」という、素朴な、しかし重要な疑問に直面します。特に、大人が自分のために病院を選ぶ場合、その選択肢の多さに戸惑うことも少なくありません。この問いに対する最も基本的で、かつ安全な答えは、まずは「一般内科」あるいは「総合診療科」を受診することです。なぜなら、発熱は、非常に多くの病気の初期症状として現れる、極めて一般的なサインだからです。風邪やインフルエンザといったよくある感染症から、肺炎、腎盂腎炎、あるいは自己免疫疾患まで、その原因は多岐にわたります。一般内科や総合診療科の医師は、特定の臓器に限定せず、患者さんの全身の状態を幅広く診察するプロフェッショナルです。丁寧な問診で、発熱以外の症状(咳、喉の痛み、腹痛、関節痛など)を聞き取り、聴診や触診、そして必要に応じて血液検査やレントゲン検査などを行うことで、発熱の原因となっている病気を総合的に探っていきます。そして、その診察の結果、より専門的な治療が必要だと判断された場合に、適切な専門診療科への「橋渡し」をしてくれるのです。例えば、ひどい咳や呼吸困難があれば「呼吸器内科」へ、排尿時の痛みや背中の痛みがあれば「泌尿器科」へ、といった具合です。いきなり専門科を受診してしまうと、もし見立てが違った場合に、再度別の科を受診し直すという手間がかかってしまいます。最初に総合的な窓口である内科を受診することは、このような「たらい回し」を防ぎ、的確な診断への最短ルートをナビゲートしてもらう上で、非常に賢明な選択と言えるのです。もちろん、喉の痛みだけが突出して強い場合は耳鼻咽喉科、ケガをした後の発熱なら整形外科、というように、明らかな原因が他にある場合はその限りではありません。しかし、特に思い当たる節がなく、どうすれば良いか迷った時は、まず「内科」の扉を叩く。これが、発熱時に覚えておくべき、基本の行動原則です。
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ただの風邪だと思っていたら…発熱の裏にあった意外な病気
多くの人にとって、発熱は「風邪」の代名詞のようなものです。市販の薬を飲んで、暖かくして寝ていれば、数日で治る。ほとんどの場合は、その通りです。しかし、私、田中(仮名・四十代男性)が経験した発熱は、そんな生易しいものではありませんでした。それは、ただの風邪ではなかったのです。始まりは、ありふれたものでした。週末に少し無理をした後、月曜の朝から、体に悪寒が走り、体温は三十八度五分。喉の痛みや咳はほとんどなく、とにかく体中の節々が痛く、だるい。「典型的な風邪だな」と思った私は、会社を休み、一日中ベッドで過ごしました。しかし、翌日になっても熱は下がるどころか、三十九度近くまで上昇。そして、右の背中から腰にかけて、ズーンと重い鈍痛が現れ始めたのです。最初は寝違えたのかと思いましたが、その痛みは時間と共に強くなり、体を動かすたびに響くようになりました。三日目の朝、さすがにおかしいと感じた私は、近所の内科クリニックを受診しました。医師は、私の症状を聞き、聴診器を当てた後、こう言いました。「念のため、尿検査をしてみましょう」。採尿を終えて待っていると、診察室に呼ばれ、医師から告げられたのは、予想もしない病名でした。「田中さん、これは『腎盂腎炎(じんうじんえん)』ですね。腎臓に細菌が感染して、炎症を起こしています。すぐに抗生物質による治療が必要です」。腎盂腎炎?聞いたこともない病名に、私は呆然としました。医師によると、膀胱炎などを我慢していると、細菌が尿管を逆流して腎臓まで達し、高熱や背中の痛みを引き起こすことがある、とのこと。確かに、数日前から少し排尿時に違和感があったことを、私は思い出しました。すぐに点滴で抗生物質の投与が開始され、飲み薬も処方されました。もし、あの時、「どうせ風邪だろう」と高を括り、背中の痛みをただの筋肉痛だと無視して、病院へ行かずにいたら。細菌がさらに増殖し、血液に乗って全身に広がる「敗血症」という、命に関わる状態になっていたかもしれない、と医師は言いました。この体験を通じて、私は、発熱という一つの症状の裏には、様々な病気の可能性が隠れていることを、身をもって知りました。そして、いつもと何か違う、と感じる自分の体のサインに、真摯に耳を傾けることの重要性を、痛感したのです。
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大人の起立性調節障害?その不調、子供だけの病気じゃない
「起立性調節障害(OD)」は、一般的に思春期に多い病気として知られています。しかし、成人してからも、同様の症状に悩まされ続ける人や、大人になってから初めて発症する人も、実は少なくありません。朝起きられない、午前中の強い倦怠感、立ちくらみやめまい。これらの症状を、単なる「低血圧」や「疲れやすい体質」として片付けているけれど、実はその背景に、治療が必要な自律神経の機能不全が隠れている可能性があるのです。大人の場合に、OD様の症状が起きる原因は様々です。一つは、思春期に発症したODが、完全に治癒しないまま、成人期にまで持ち越されてしまうケースです。症状は軽くなったものの、ストレスや過労、睡眠不足などが引き金となって、再び症状が悪化することがあります。もう一つは、成人してから新たに発症するケースです。特に、女性の場合は、出産後のホルモンバランスの乱れや、育児による極度の疲労、あるいは更年期における自律神経の揺らぎが、OD様の症状を引き起こすことがあります。また、男女問わず、過重労働や長時間にわたるデスクワーク、不規則なシフト勤務といった、現代社会特有の生活習慣も、自律神経のバランスを崩し、症状を誘発する大きな要因となります。大人の場合、問題となるのは、この病気に対する医療現場や社会の認知度が、まだ低いことです。子供であれば「起立性調節障害」と診断されるような症状でも、大人が訴えると、「うつ病」や「慢性疲労症候群」と診断されたり、あるいは「原因不明の不定愁訴」として、はっきりとした診断がつかないまま、ドクターショッピングを繰り返してしまったりすることが少なくありません。もし、あなたが長年、原因不明の朝の不調や、立ちくらみに悩んでいるのであれば、子供の病気だと諦めずに、一度、自律神経の専門家がいる医療機関に相談してみる価値はあります。受診すべき診療科としては、「循環器内科」で心臓や血圧に異常がないかを確認した上で、「心療内科」や、自律神経外来を標榜する「内科」などが挙げられます。あなたの長年の苦しみは、正しい診断と治療によって、改善できる可能性があるのです。
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沈黙の臓器の健康診断、肝機能の数値の見方
アルコール性肝障害は、初期には自覚症状がほとんどないため、その発見のきっかけとして最も重要なのが、健康診断などで行われる「血液検査」です。検査結果の紙に並んだ、アルファベットと数字の羅列。その中でも、特に肝臓の状態を示す「AST(GOT)」「ALT(GPT)」「γ-GTP(ガンマジーティーピー)」という三つの数値は、お酒を飲む習慣のある人なら、必ずチェックすべき重要な指標です。これらの数値が、あなたの肝臓の状態を雄弁に物語っています。まず、「AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)」と「ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)」は、どちらも肝細胞の中に含まれる酵素です。肝臓の細胞が、アルコールやウイルスなどによって破壊されると、これらの酵素が血液中に漏れ出してきます。そのため、ASTとALTの数値が高いということは、「今、肝細胞が壊れている」というサインになります。ALTは主に肝臓に存在しますが、ASTは肝臓だけでなく、心臓や筋肉にも存在します。アルコール性肝障害の場合は、ASTの方がALTよりも優位に上昇する(AST > ALT)という特徴が見られることがあります。次に、「γ-GTP(ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ)」です。この酵素は、アルコールの摂取に非常に敏感に反応することで知られており、まさに「お酒の飲みすぎ指標」とも言えます。習慣的に飲酒をしていると、肝臓でのγ-GTPの産生が促進され、数値が上昇します。ASTやALTが正常でも、γ-GTPだけが高い場合は、まだ肝細胞の破壊には至っていないものの、肝臓がアルコールによって負担を受けている状態(アルコール性脂肪肝など)を示唆しています。これは、体からの「これ以上、飲み続けると危険ですよ」という、初期の警告サインです。健康診断で、これらの肝機能の数値に「要経過観察」や「要精密検査」といった判定が出た場合、それは沈黙の臓器がようやく発した、貴重なメッセージです。絶対に放置せず、必ず消化器内科や肝臓内科を受診し、腹部超音波(エコー)検査などを受けて、肝臓の詳しい状態を調べてもらうようにしてください。早期の対処が、あなたの肝臓の未来を大きく左右するのです。
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大人がおたふかぜに、何科を受診すれば良い?
高熱と、耳の下から顎にかけての、経験したことのないような腫れと痛み。症状からして、どうやら「おたふくかぜ」に感染してしまったようだ。そう思った時、大人はどの診療科を受診するのが最も適切なのでしょうか。子供であれば迷わず小児科ですが、大人の場合は、症状や状況に応じて、いくつかの選択肢が考えられます。まず、最も一般的で、最初の相談窓口として適しているのが「内科」です。内科医は、発熱や倦怠感といった全身症状を診察し、おたふくかぜの診断を下すことができます。おたふくかぜには特効薬がないため、治療は、つらい症状を和らげる対症療法が中心となります。内科では、高熱や頭痛に対する解熱鎮痛剤や、痛みで食事が摂れない場合の点滴など、全身状態を管理するための適切な処置を受けることができます。また、他の感染症(例えば、伝染性単核球症など、似た症状を示す病気)との鑑別も行ってくれます。次に、耳下腺や顎下腺の腫れ、痛みが特に強い場合は、「耳鼻咽喉科」も専門の診療科となります。耳鼻咽喉科医は、首周りの構造の専門家です。腫れているのが、本当におたふくかぜの原因である耳下腺なのか、あるいは化膿して膿がたまる「化膿性耳下腺炎」や、唾液の通り道に石ができる「唾石症」、あるいはリンパ節の腫れではないか、といった鑑別診断を得意としています。超音波検査などで、腫れの内部の状態を詳しく調べることも可能です。そして、もし、おたふくかぜの合併症を疑うような、危険なサインが現れた場合は、状況が変わってきます。「激しい頭痛」と「嘔吐」が続く場合は、髄膜炎の可能性があるため、「神経内科」や、入院設備のある総合病院の受診が必要です。男性で、「睾丸の激しい痛みと腫れ」が現れた場合は、精巣炎が疑われるため、「泌尿器科」が専門となります。とはいえ、最初にどの科に行くべきか迷ったら、まずはかかりつけの「内科」に相談するのが最もスムーズです。そこで診断を受け、もし合併症の兆候が見られれば、適切な専門科へ紹介してもらう、という流れが一番確実で安心な方法と言えるでしょう。
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肋軟骨炎と肋間神経痛、似ている胸の痛みの違い
胸の片側に、突然、鋭い痛みが走る。この症状を聞いて、多くの人が思い浮かべるのが「肋間神経痛」と「肋軟骨炎」です。この二つは、どちらも命に別状のない良性の疾患でありながら、心臓の病気と間違えられるほどの強い痛みを引き起こす点で共通しています。症状も似ているため、混同されがちですが、その痛みの発生メカニズムには違いがあります。まず、「肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)」は、その名の通り、肋骨に沿って走っている「肋間神経」が、何らかの原因で刺激されることによって起こる「神経痛」の一種です。病名というよりは、症状名と言った方が正確です。原因は様々で、帯状疱疹ウイルスによるもの、背骨(胸椎)の変形やヘルニアによる神経の圧迫、あるいは原因不明の特発性のものもあります。痛み方は、「電気が走るような」「ピリピリ、チクチクする」といった、神経痛特有の鋭い痛みが、片側の肋骨に沿って帯状に現れるのが特徴です。一方、「肋軟骨炎(ろくなんこつえん)」は、胸骨と肋骨をつなぐ「肋軟骨」という部分に炎症が起きる病気です。これは、神経の痛みではなく、あくまで「炎症性の痛み」です。そのため、痛み方は「ズキンとする」「疼くような」鋭い痛みであり、痛みの場所も、胸の前面の、特定の肋軟骨の部位に限定されます。そして、この二つを見分ける上で、最も重要な違いが「圧痛点(押して痛い点)の有無と場所」です。肋軟骨炎は、炎症が起きている肋軟骨の部分を指で押すと、ピンポイントで強い痛みが再現されます。これに対して、肋間神経痛の場合は、特定の圧痛点ははっきりせず、神経の走行に沿って、広範囲に痛みを感じることが多いです。どちらの病気も、診断と治療を行うのは「整形外科」が中心となります。治療法も、基本的には消炎鎮痛剤の投与や、安静といった保存的治療が主体となる点で共通しています。しかし、帯状疱疹が原因の肋間神経痛の場合は、抗ウイルス薬による早期治療が必要となるため、皮膚科との連携も重要になります。似ているようで少し違う、この二つの痛み。正確な診断は、やはり専門医に委ねるのが一番です。