かつて、下肢静脈瘤の根本的な治療と言えば、足の付け根などを切開し、逆流の原因となっている静脈を引き抜く「ストリッピング手術」が主流でした。これは、確実な治療法である一方、体への負担が大きく、数日間の入院が必要で、術後の痛みや皮下出血も強いというデメリットがありました。しかし、近年、下肢静脈瘤の治療は劇的に進化しています。その中心となっているのが、皮膚を切らずに、体への負担を最小限に抑えて行う「血管内治療」です。その代表格が、「血管内レーザー焼灼術(しょうしゃくじゅつ)」です。これは、どのような治療法なのでしょうか。血管内レーザー焼灼術は、まず、超音波(エコー)で逆流している静脈の位置を確認しながら、膝のあたりに注射針ほどの細い針を刺します。そして、その針穴から、レーザーファイバーという、髪の毛ほどの細さの光ファイバーを、静脈の中に挿入していきます。ファイバーの先端を、逆流の起点である足の付け根まで進めた後、局所麻酔(TLA麻酔)を静脈の周囲に十分に注入します。この麻酔は、痛みを抑えるだけでなく、周囲の組織を熱から守る重要な役割も果たします。準備が整ったら、レーザーを照射しながら、ファイバーをゆっくりと引き抜いてきます。すると、レーザーの熱エネルギーによって、静脈の壁が内側から焼き固められ、完全に閉塞します。血流がなくなった静脈は、その後、数ヶ月かけて、徐々に体に吸収されていきます。逆流の元栓が閉められることで、ボコボコと浮き出ていた静脈瘤も、自然としぼんで目立たなくなります。この治療の最大のメリットは、皮膚を切開しないため、傷跡がほとんど残らず、術後の痛みも非常に少ないことです。局所麻酔で行えるため、治療時間は三十分から一時間程度で、術後すぐに歩いて帰宅できる「日帰り治療」が可能です。同様の原理で、レーザーの代わりに高周波(ラジオ波)を用いる「血管内高周波焼灼術」もあり、どちらも保険適用で受けることができます。この「切らない治療」の登場により、下肢静脈瘤の治療は、誰もが気軽に、そして安心して受けられるものへと大きく変わったのです。
下肢静脈瘤の最新治療、切らないレーザー治療とは