気づけば、外出先のトイレの場所を常に頭の中でマッピングしている自分がいました。電車に乗る前、会議が始まる前、映画を見る前。とにかく、少しでもトイレに行けない状況になるのが怖くて、その前に必ずトイレに行っておかないと安心できない。そして、そんな時に限って、突然、我慢できないほどの強い尿意に襲われるのです。これは、四十代半ばを過ぎた頃から始まった、私の密かな悩みでした。最初は、冷え性だから、あるいはコーヒーの飲み過ぎだろうと、あまり気にしないようにしていました。しかし、症状は徐々にエスカレートし、友人との長時間のドライブや、観劇といった、かつての楽しみさえも、トイレの心配が先に立って心から楽しめなくなってしまいました。生活の質が明らかに低下している。このままではいけない。そう思った私は、恥ずかしさをこらえ、勇気を出して女性泌尿器科のクリニックを予約しました。診察室で、恐る恐る自分の症状を話すと、女性の先生は優しく頷きながら、「それは過活動膀胱の典型的な症状ですね」と言いました。過活動膀胱とは、膀胱に尿が十分に溜まっていないにもかかわらず、膀胱が勝手に収縮してしまい、突然の強い尿意(尿意切迫感)や、頻尿を引き起こす病気だそうです。私の悩みは、気のせいでも、精神的なものでもなく、治療できる病気だったのです。その日から、私の治療が始まりました。処方されたのは、膀胱の異常な収縮を抑えるための飲み薬。そして、先生から指導されたのが、「骨盤底筋トレーニング」でした。これは、尿道を締める役割を持つ骨盤底筋を、意識的に鍛える体操です。毎日、テレビを見ながら、気づいた時に、キュッと締めたり緩めたりを繰り返しました。薬の効果と、地道なトレーニングの成果は、一ヶ月もすると明らかになってきました。急にトイレに駆け込む回数が減り、尿意を少し我慢できるようになったのです。それは、私にとって大きな自信となりました。今では、トイレの場所を気にすることなく、旅行や映画を心から楽しんでいます。もし、かつての私と同じように、トイレの回数で行動が制限されている女性がいたら、伝えたいです。その悩みは、決して特別なことではありません。勇気を出して、専門家の扉を叩いてみてください。