アルコール性肝障害の治療の根幹は「禁酒」ですが、それと同じくらい重要になるのが、傷ついた肝臓を回復させ、再生を促すための「栄養療法」です。長年の飲酒習慣によって、体は栄養バランスが大きく崩れ、特に肝臓の働きに不可欠な栄養素が枯渇している状態にあります。適切な食事を摂ることは、回復を早め、合併症を防ぐ上で、薬にも勝る効果を発揮します。まず、最も意識すべきなのは、「十分なエネルギーとタンパク質の確保」です。アルコール性肝障害の患者さんは、アルコール自体からカロリーを摂取している一方で、食事からの栄養摂取が疎かになり、実は「栄養失調」に陥っていることが少なくありません。肝臓が再生するためには、その材料となる良質なタンパク質が不可欠です。肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などを、毎食バランス良く取り入れることを心がけましょう。ただし、肝硬変まで進行し、肝性脳症のリスクがある場合は、タンパク質の摂取制限が必要になることもあるため、必ず医師や管理栄養士の指示に従ってください。次に、アルコールの分解や、肝臓の代謝機能に大量に消費されてしまう「ビタミンとミネラル」を、積極的に補給することも重要です。特に、ビタミンB群(豚肉、レバー、うなぎ、玄米など)、亜鉛(牡蠣、牛肉、チーズなど)、そして抗酸化作用のあるビタミンC(果物、野菜)やビタミンE(ナッツ類、植物油)は、意識して摂りたい栄養素です。これらの栄養素をバランス良く摂取するためには、特定の食品に偏るのではなく、多様な食材を使った、彩り豊かな食事を目指すのが良いでしょう。また、「塩分の制限」も、特に肝硬変で腹水やむくみがある場合には、非常に重要となります。塩分の摂りすぎは、体内に水分を溜め込み、症状を悪化させる原因となります。出汁の旨味や、香辛料、香味野菜(生姜、ニンニク、ハーブなど)を上手に活用し、薄味でも美味しく食べられる工夫をしましょう。加工食品やインスタント食品は、塩分が多く含まれているため、できるだけ避けるのが賢明です。傷ついた肝臓をいたわる食事は、決して特別なものではありません。一日三食、主食・主菜・副菜の揃った、バランスの良い食事を規則正しく摂ること。この当たり前の食生活を取り戻すことが、あなたの肝臓を再生させる、何よりの力となるのです。