めまいと吐き気は、多くの場合、命に別状のない耳の病気が原因です。しかし、ごく稀に、その背後に「脳卒中(脳梗塞や脳出血)」という、一刻を争う、命に関わる病気が隠れていることがあります。特に、体のバランスを司る「小脳」や「脳幹」といった部分に脳卒中が起きた場合、耳の病気と非常によく似た、激しいめまいと吐き気を引き起こすのです。「どうせ耳の病気だろう」と自己判断してしまうと、手遅れになりかねません。ここでは、危険な脳卒中のサインを、耳の病気と見分けるための重要なチェックポイントを解説します。以下の症状が、めまいと吐き気に加えて、一つでも当てはまる場合は、絶対に様子を見ずに、すぐに救急車を呼んでください。激しい頭痛:特に、「後頭部をハンマーで殴られたような」と表現される、突然の激しい頭痛は、くも膜下出血などの危険なサインです。ろれつが回らない、言葉が出にくい:うまく喋れない、単語が出てこないといった「言語障害」。片側の手足や顔の麻痺、しびれ:「片方の腕に力が入らない」「箸をうまく持てない」「顔の半分が歪んで、口の片側から水がこぼれる」。物が二重に見える(複視):片方の目で隠しても、物が二重に見える。まっすぐ歩けない、立てない:ふらついて、まっすぐ歩くことができず、片側に倒れそうになる。耳の病気でも歩行は困難になりますが、脳が原因の場合は、その不安定さがより顕著です。意識障害:呼びかけへの反応が鈍い、意識が朦朧としている。これらの神経症状は、脳の機能が障害されていることを示す、極めて重要なサインです。耳が原因のめまいの場合は、どんなにめまいがひどくても、意識ははっきりしており、手足の麻痺やろれつ障害が起こることはありません。これが、両者を見分ける上での、決定的な違いです。また、高齢者や、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の持病がある方は、脳卒中のリスクが元々高いため、より一層の注意が必要です。めまいと吐き気に、「神経症状」が伴うか否か。この一点を、冷静に、しかし迅速に判断することが、あなたの、あるいはあなたの大切な人の命を救うことに繋がるのです。