健康知識と医療の基本をわかりやすく解説

2025年7月
  • ワクチン未接種の大人世代、今から考えるべきおたふく対策

    知識

    現在、三十代から五十代くらいの、いわゆる「大人世代」の中には、子供の頃に、おたふくかぜのワクチンを接種する機会がなかった、という方が、実はかなりの数に上ります。おたふくかぜワクチンは、長い間、個人の判断で受ける「任意接種」であったため、接種率が低い時代が続きました。そのため、この世代は、ウイルスに対する免疫を持たないまま、大人になっている可能性が高いのです。もし、子供の頃におたふくかぜに自然にかかった確証もない、という場合、あなたは、いつ感染してもおかしくない、無防備な状態にあると言えます。そして、大人がおたふくかぜにかかった場合のリスクは、前述の通り、非常に深刻です。では、私たちワクチン未接種世代は、今からどのような対策を考えるべきなのでしょうか。最も確実で、効果的な対策は、やはり「ワクチンを接種する」ことです。「今さら打っても…」と思うかもしれませんが、何歳になっても、ワクチンによる予防効果は十分に期待できます。特に、これから子供を持つことを考えている男性、あるいは、保育士や教師など、日常的に子供と接する機会の多い職業の方は、自分自身と周りの人々を守るために、接種を強くお勧めします。接種を検討する際には、まず、自分が本当に免疫を持っているかどうかを、「抗体検査」で調べることができます。これは、少量の血液を採るだけで、ムンプスウイルスに対する免疫(抗体)の有無を確認できる検査です。もし、抗体が十分にあれば、ワクチンを接種する必要はありません。抗体が不十分であった場合にのみ、ワクチンを接種する、という合理的な選択が可能です。抗体検査やワクチン接種は、内科やトラベルクリニックなどで受けることができます。費用は自己負担となりますが、一度感染してしまった場合の、仕事への影響や、合併症のリスクを考えれば、決して高い投資ではありません。また、日常生活での予防も大切です。おたふくかぜが流行している時期には、手洗いやうがいを徹底し、人混みを避ける、といった基本的な感染対策も有効です。自分のワクチン歴や感染歴が曖昧である、という方は、ぜひ一度、この機会にご自身の「おたふく対策」について、真剣に考えてみてはいかがでしょうか。それは、未来の健康を守るための、賢明な一歩となるはずです。

  • 整形外科か内科か?胸の痛みで迷った時の正しい判断

    医療

    胸に痛みを感じた時、多くの人が「整形外科に行くべきか、それとも内科に行くべきか」という、重大な選択に直面します。この二つの診療科は、扱う病気の領域が全く異なるため、自分の症状の特徴を正しく見極めて、適切な科を選ぶことが、迅速な診断と安心に繋がります。まず、「整形外科」を受診すべきなのは、痛みに以下のような特徴がある場合です。痛みの場所がはっきりしている:「胸のこの一点が痛い」と、指で正確に場所を指し示すことができる。特定の動作で痛みが誘発・悪化する:体をひねる、深呼吸をする、腕を上げる、寝返りをうつ、といった特定の動きで痛みが強まる。圧痛がある:痛い部分を指で押すと、痛みが再現されたり、さらに強くなったりする。これらの特徴は、痛みの原因が、骨や軟骨、筋肉、神経といった「体の表面に近い運動器」にあることを示唆しており、肋軟骨炎や肋間神経痛、あるいは肋骨の疲労骨折などが考えられます。これらは、まさに整形外科の専門領域です。一方、「内科」、特に「循環器内科」や「呼吸器内科」の受診を最優先で考えるべきなのは、痛みに以下のような特徴がある場合です。痛みの場所が曖昧で、広範囲に感じる:「胸の真ん中あたりが、全体的に重苦しい」といった、漠然とした痛み。締め付けられる、圧迫されるような痛み:まるで重石を乗せられたかのような、鈍い圧迫感。痛み以外の症状を伴う:冷や汗、吐き気、息苦しさ、動悸、発熱、ひどい咳や痰などを伴う。これらのサインは、心筋梗塞や狭心症といった心臓の病気、あるいは肺炎や胸膜炎、気胸といった肺の病気など、命に関わる可能性のある「内臓の病気」を示唆しています。この場合は、一刻も早く内科的な診察と検査(心電図、レントゲン、血液検査など)を受ける必要があります。結論として、判断のポイントは「痛みと体の動きが連動しているか」です。動きと連動する表面的な痛みなら整形外科へ。内側から来るような、動きと関係ない痛みで、全身症状を伴うなら内科へ。もし、どちらか判断に迷う場合は、まずは内科を受診して、危険な内臓の病気がないことを確認してもらうのが、最も安全なアプローチと言えるでしょう。

  • お酒を飲まないのに脂肪肝?非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)とは

    医療

    「脂肪肝」と聞くと、多くの人が「お酒の飲みすぎが原因」と考えがちです。しかし、近年、お酒を全く飲まない、あるいは、飲んだとしても少量であるにもかかわらず、肝臓に脂肪がたまってしまう「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:ナッフルディー)」の患者さんが、急速に増加しており、大きな問題となっています。これは、もはや他人事ではない、現代の食生活と密接に関わる、新しい国民病とも言える病気です。NAFLDの最大の原因は、「肥満」と、それに伴う「インスリン抵抗性」です。食べ過ぎや運動不足によって、消費しきれなかったエネルギーは、中性脂肪として体内に蓄えられます。その主な貯蔵庫が、皮下脂肪や内臓脂肪、そして「肝臓」なのです。特に、糖質の多い食事(ご飯、パン、麺類、甘いお菓子やジュースなど)の摂りすぎは、肝臓での脂肪の合成を促進し、NAFLDの直接的な引き金となります。NAFLDは、その進行度によって、二つのタイプに分けられます。一つは、単に肝臓に脂肪がたまっているだけで、炎症は起きていない「単純性脂肪肝(NAFLD)」です。これは、アルコール性脂肪肝と同様に、比較的予後は良好で、食事療法や運動療法といった生活習慣の改善によって、改善が見込めます。しかし、問題となるのが、もう一つのタイプである「非アルコール性脂肪肝炎(NASH:ナッシュ)」です。これは、脂肪肝をベースに、肝臓に炎症や線維化(組織が硬くなること)が加わった、より進行した病態です。NASHを放置すると、自覚症状がないまま、十数年の歳月をかけて、肝硬変や肝がんへと進行していく可能性があり、「沈黙の病」として、非常に警戒されています。診断は、血液検査で肝機能の異常が見つかったことをきっかけに、腹部超音波検査や、肝臓の硬さを測定するエラストグラフィ検査などを行って進められます。お酒を飲まないから、肝臓は大丈夫。その考えは、もはや過去のものです。肥満や、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病を指摘されている方は、飲酒習慣の有無にかかわらず、定期的に肝機能のチェックを受け、NAFLDのリスクを意識することが、健康長寿の鍵となります。

  • 足の血管がボコボコ、下肢静脈瘤は何科へ行くべきか

    医療

    ふと自分の足を見た時、ふくらはぎの血管が、ミミズのように、あるいはコブのように、青くボコボコと浮き出ていることに気づく。あるいは、夕方になると足がパンパンにむくんで重くだるい、寝ている間によく足がつる(こむら返り)。これらの症状は、中高年の女性に特に多く見られる「下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)」の典型的なサインです。見た目の問題だけでなく、不快な症状を伴うこの病気。いざ病院で相談しようにも、「一体、何科を受診すれば良いのだろう?」と、多くの人がその入り口で迷ってしまいます。この問いに対する最も的確な答えは、「血管外科」あるいは「心臓血管外科」です。血管外科は、その名の通り、動脈や静脈といった「血管」の病気を専門に診断・治療する診療科です。下肢静脈瘤は、足の静脈にある、血液の逆流を防ぐための「弁」が、加齢や妊娠・出産、長時間の立ち仕事などによって壊れてしまい、血液が心臓に戻れずに足に溜まってしまうことで起こる、血管の病気です。血管外科医は、ドップラー血流計や超音波(エコー)検査といった専門的な機器を用いて、足の静脈のどの部分で血液が逆流しているのか、その状態を正確に診断します。そして、その診断結果と患者さんの症状、希望に応じて、弾性ストッキングによる圧迫療法、硬化療法(薬剤を注入して血管を固める)、あるいはレーザーや高周波による血管内治療、さらにはストリッピング手術といった、様々な治療の選択肢の中から、最適なものを提供してくれます。しかし、全ての病院に血管外科があるわけではありません。その場合は、まず「皮膚科」や「形成外科」に相談するのも一つの方法です。皮膚科や形成外科でも、下肢静脈瘤の診断や、硬化療法などの一部の治療を行っていることがあります。また、「一般外科」でも対応可能な場合があります。重要なのは、自己判断で「年のせいだから」と放置しないこと。まずは、これらの診療科のいずれかを訪れ、専門家による正しい診断を受けることが、つらい症状から解放されるための、最も確実な第一歩となるのです。

  • 男性は要注意!おたふくかぜと精巣炎の恐怖

    知識

    大人がかかるおたふくかぜが、なぜ特に男性にとって危険視されるのか。その最大の理由は、思春期以降の男性が感染した場合、約二割から三割という非常に高い確率で、「精巣炎(睾丸炎)」という深刻な合併症を引き起こすからです。この精巣炎は、激しい痛みと高熱を伴うだけでなく、将来の妊孕性(にんようせい)、つまり子供を作る能力に、永続的な影響を及ぼす可能性がある、非常に恐ろしい病気なのです。おたふくかぜのウイルス(ムンプスウイルス)は、耳下腺だけでなく、全身の腺組織や神経組織に感染しやすいという特徴を持っています。精巣もそのターゲットの一つです。耳下腺の腫れが始まってから、おおよそ四日から十日後くらいに、突然、片側あるいは両側の精巣が、赤くパンパンに腫れ上がり、触れることもできないほどの激しい痛みに襲われます。同時に、再び四十度近い高熱が出て、強い悪寒や吐き気を伴います。その痛みは、立っていることも、座っていることもできず、ただひたすらベッドの上でうずくまって耐えるしかない、とてつもない苦痛です。この急性期の症状は、一週間ほどで徐々に和らいでいきますが、問題はその後です。炎症によってダメージを受けた精巣は、数ヶ月かけて、徐々に萎縮(いしゅく)してしまうことがあります。精巣は、精子を作り出す非常に重要な臓器です。この精巣が萎縮すると、精子を作り出す能力が低下、あるいは完全に失われてしまうことがあるのです。もし、両側の精巣が共にひどい炎症を起こし、萎縮してしまった場合、それは「男性不妊」の直接的な原因となり得ます。これを「ムンプス精巣炎後無精子症」と呼びます。子供の頃に、おたふくかぜの予防接種を受けていれば、あるいは自然に感染して免疫を獲得していれば、防ぐことができたはずの後悔です。自分はかかったことがない、ワクチンも打っていないかもしれない。そう思う成人男性は、今からでもワクチン接種を検討する価値が十分にあります。それは、将来の自分の家族計画を守るための、最も確実な投資となるのです。

  • 放置は危険!下肢静脈瘤が引き起こす皮膚トラブル

    医療

    足の血管がボコボコと浮き出る下肢静脈瘤。「見た目が気になるけれど、痛みもそれほどないし、まあいいか」と、長年放置してしまっている方はいませんか。しかし、下肢静脈瘤は、単なる美容上の問題ではありません。これを放置し、足の血行不良が慢性化すると、皮膚に深刻なトラブルを引き起こし、生活の質を著しく低下させてしまうことがあるのです。その状態を、「慢性静脈不全」と呼びます。足の静脈に血液が長期間うっ滞すると、血管の中から水分や血液の成分(赤血球など)が、皮膚の組織へと漏れ出してきます。初期に現れるのが、「うっ滞性皮膚炎」です。主に、足首の内側のくるぶし周辺に、湿疹や強いかゆみ、赤みが生じます。皮膚は乾燥してカサカサになり、掻き壊すことで、さらに症状が悪化するという悪循環に陥ります。そして、漏れ出した赤血球に含まれるヘモグロビンが、皮膚組織の中で分解され、ヘモジデリンという色素に変わって沈着します。これにより、皮膚が茶色っぽく、黒ずんだように変色してしまう「色素沈着」が起こります。この状態になると、たとえ静脈瘤の治療をしても、色が完全に元に戻るのは難しくなります。さらに症状が進行すると、皮膚は栄養不足で非常に脆くなり、些細な刺激で傷つきやすくなります。そして、最終的には、皮膚の組織が壊死して、えぐれたような傷ができる「皮膚潰瘍(ひふかいよう)」に至ります。この潰瘍は、一度できてしまうと、非常に治りにくく、強い痛みを伴い、細菌感染のリスクも高まります。治療には、数ヶ月単位での根気強い処置が必要となり、患者さんに大きな苦痛と負担を強いることになります。このように、下肢静脈瘤は、ゆっくりと、しかし確実に皮膚を蝕んでいく病気なのです。皮膚に、かゆみや湿疹、色の変化といったサインが現れたら、それはもはや「様子を見ている段階」ではありません。皮膚が悲鳴を上げている証拠です。手遅れになる前に、血管外科や皮膚科を受診し、適切な治療を開始することが、あなたの足の健康を守るために何よりも重要です。

  • 私が肋軟骨炎の激痛で救急車を呼ぼうか迷った話

    医療

    それは、ある日曜日の午後のことでした。ソファでくつろいでいた時、ふとした拍子に、左胸に「ズキン!」という、今まで経験したことのない鋭い痛みが走りました。まるで、胸の内側から太い針で突き刺されたかのよう。息を吸おうとすると、さらに激痛が走り、思わず呼吸を止めてしまいました。パニックになった私の頭をよぎったのは、「心筋梗塞」という最悪のシナリオでした。テレビで見た、胸を押さえて倒れる人のイメージが、現実のものとして迫ってきます。痛みは、断続的に、しかし容赦なく襲ってきます。冷や汗は出ない。吐き気もない。でも、とにかく痛い。このまま意識を失ったらどうしよう。私は、本気で救急車を呼ぶべきか迷いました。スマートフォンを手に取り、119をタップする寸前で、私はあることに気づきました。痛みが、特定の動きと連動しているのです。腕を上げようとすると痛む。体を少しひねると痛む。そして、恐る恐る、痛みの中心である左胸の肋骨の上あたりを指で押してみると、「そこだ!」と叫びたくなるほどの激痛が走りました。この「押すと痛い」という事実に、私は少しだけ冷静さを取り戻しました。「心臓の痛みなら、外から押しても痛くならないはずだ…」。そう思い直し、私は救急車の要請を思いとどまり、翌朝、一番で近所の整形外科を受診することにしました。整形外科の医師は、私の話を一通り聞くと、すぐに胸の触診を始めました。そして、私が昨日から何度も確認していた、あの痛みのポイントを指で押した瞬間、「痛いですか?ここですね」と、にこやかに言いました。レントゲンを撮っても、骨にも肺にも異常はなし。診断は、「典型的な肋軟-骨炎ですね。心配いりませんよ」というものでした。原因は、数日前に重い家具を動かしたことだろう、とのこと。あの時、パニックのまま救急車を呼んでいたら、大げさだと笑われたかもしれません。しかし、私は今でも、あの時の自分の判断は間違っていなかったと思っています。胸の痛みに関しては、最悪を想定して行動すること。そして、冷静に症状を観察し、適切な診療科を選ぶこと。その両方が、自分自身の命と安心を守るために、いかに重要であるかを、身をもって学んだ出来事でした。

  • 「怠け」じゃない、起立性調節障害の子供への正しい接し方

    生活

    朝、ぐったりとベッドから起き上がれない我が子を前に、「いつまで寝ているの!」「学校へ行く気がないの?」と、つい厳しい言葉を投げかけてしまう。そんな経験に、胸を痛めている親御さんは少なくないでしょう。しかし、もしその原因が起立性調節障害(OD)であるなら、そのような言葉は、お子さんを深く傷つけ、症状をさらに悪化させてしまうだけです。ODの子供たちへの対応で、家族が心得るべき最も大切なことは、「この病気は、本人の気力や根性の問題ではない」と、心から理解することです。子供自身が、誰よりも「学校へ行きたいのに、体が動かない」という、もどかしさと罪悪感に苦しんでいます。その苦しみに寄り添い、家庭を「安心できる安全基地」にすることが、回復への第一歩となります。では、具体的にどのように接すれば良いのでしょうか。まず、「無理に起こさない」ことです。朝、叩き起こしたり、布団をはがしたりする行為は、症状を悪化させるだけでなく、親子の信頼関係を損ないます。声かけは優しく、一度で起きられなくても責めないでください。次に、「共感の言葉をかける」ことです。「つらいね」「しんどいね」と、本人の苦しみをそのまま受け止め、共感する姿勢を示しましょう。「怠けている」というレッテルを貼らず、一番の理解者でいてあげることが、子供の孤立感を和らげます。そして、「できたことを褒める」習慣をつけましょう。午前中は動けなくても、午後から少し散歩に行けた。宿題を少しだけ進められた。そんな小さな一歩を「すごいね」「頑張ったね」と具体的に褒めてあげることで、子供は自己肯定感を取り戻し、次への意欲に繋がります。生活面では、医師の指導のもと、水分や塩分を多めに摂れるような食事を工夫したり、立ちくらみがしにくいように、ベッドの頭側を少し高くしてあげたり、といったサポートが有効です。また、学校との連携も重要です。親が積極的に学校と連絡を取り、病気について説明し、遅刻や欠席への理解を求めることで、子供の心理的な負担は大きく軽減されます。焦らず、比べず、休むことを認め、子供のペースを信じて待つ。その根気強いサポートこそが、ODの子供にとって、何よりの薬となるのです。

  • あなたは大丈夫?アルコール性肝障害の危険なサイン

    医療

    肝臓は「沈黙の臓”器」と呼ばれ、その機能がかなり低下するまで、はっきりとしたサインを出さないことで知られています。そのため、アルコール性肝障害は、気づかないうちに進行していることが少なくありません。しかし、注意深く自分の体の変化に耳を澄ませば、肝臓が発するSOSのサインを早期にキャッチすることができます。以下に挙げる症状に、もし心当たりがあるなら、それは肝臓からの危険な警告かもしれません。まず、初期段階である「アルコール性脂肪肝」では、ほとんど自覚症状はありません。しかし、人によっては「なんとなく体がだるい」「疲れやすい」「右の上腹部に重い感じがする」といった、漠然とした不調を感じることがあります。多くの人は、これを単なる飲みすぎや二日酔い、あるいは年齢のせいだと片付けてしまいがちです。病気が「アルコール性肝炎」へと進行すると、症状はより明確になります。「食欲が全くない」「吐き気や嘔吐がある」「微熱が続く」「明らかに体がだるくて、仕事に集中できない」。これらの症状は、風邪や胃腸炎と間違えられやすいですが、過度な飲酒習慣がある場合は、肝臓の炎症を疑う必要があります。さらに病状が悪化し、「肝硬変」の領域に足を踏み入れると、もはや見過ごすことのできない、深刻なサインが現れます。黄疸(おうだん):白目や皮膚が黄色っぽくなる。これは、肝臓がビリルビンという黄色い色素を処理できなくなるために起こります。腹水(ふくすい):お腹に水がたまり、カエルのようにパンパンに膨らむ。手のひらの赤み(手掌紅斑):手のひら、特に親指と小指の付け根が不自然に赤くなる。クモ状血管腫:胸や肩、首のあたりに、クモの足のような形をした、赤い血管の浮き上がりが現れる。むくみ(浮腫):足のすねなどを指で押すと、跡が残るほどむくむ。出血傾向:鼻血が出やすい、歯茎から出血する、些細なことで青あざができる。これらの症状は、肝臓の機能がもはや限界に達していることを示しています。一つでも当てはまる場合は、絶対に放置せず、速やかに消化器内科や肝臓内科などの専門医を受診してください。早期の発見と、何よりも禁酒が、あなたの未来を守る鍵となります。

  • 発熱したらまず何科?最初に選ぶべき診療科の基本

    医療

    ある日突然、体に熱っぽさを感じ、体温計の数字が三十八度を超えている。そんな時、多くの人が「病院へ行こう」と考えますが、同時に「一体、何科を受診すれば良いのだろう?」という、素朴な、しかし重要な疑問に直面します。特に、大人が自分のために病院を選ぶ場合、その選択肢の多さに戸惑うことも少なくありません。この問いに対する最も基本的で、かつ安全な答えは、まずは「一般内科」あるいは「総合診療科」を受診することです。なぜなら、発熱は、非常に多くの病気の初期症状として現れる、極めて一般的なサインだからです。風邪やインフルエンザといったよくある感染症から、肺炎、腎盂腎炎、あるいは自己免疫疾患まで、その原因は多岐にわたります。一般内科や総合診療科の医師は、特定の臓器に限定せず、患者さんの全身の状態を幅広く診察するプロフェッショナルです。丁寧な問診で、発熱以外の症状(咳、喉の痛み、腹痛、関節痛など)を聞き取り、聴診や触診、そして必要に応じて血液検査やレントゲン検査などを行うことで、発熱の原因となっている病気を総合的に探っていきます。そして、その診察の結果、より専門的な治療が必要だと判断された場合に、適切な専門診療科への「橋渡し」をしてくれるのです。例えば、ひどい咳や呼吸困難があれば「呼吸器内科」へ、排尿時の痛みや背中の痛みがあれば「泌尿器科」へ、といった具合です。いきなり専門科を受診してしまうと、もし見立てが違った場合に、再度別の科を受診し直すという手間がかかってしまいます。最初に総合的な窓口である内科を受診することは、このような「たらい回し」を防ぎ、的確な診断への最短ルートをナビゲートしてもらう上で、非常に賢明な選択と言えるのです。もちろん、喉の痛みだけが突出して強い場合は耳鼻咽喉科、ケガをした後の発熱なら整形外科、というように、明らかな原因が他にある場合はその限りではありません。しかし、特に思い当たる節がなく、どうすれば良いか迷った時は、まず「内科」の扉を叩く。これが、発熱時に覚えておくべき、基本の行動原則です。