健康知識と医療の基本をわかりやすく解説

2025年7月
  • 発熱したらまず何科?最初に選ぶべき診療科の基本

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    ある日突然、体に熱っぽさを感じ、体温計の数字が三十八度を超えている。そんな時、多くの人が「病院へ行こう」と考えますが、同時に「一体、何科を受診すれば良いのだろう?」という、素朴な、しかし重要な疑問に直面します。特に、大人が自分のために病院を選ぶ場合、その選択肢の多さに戸惑うことも少なくありません。この問いに対する最も基本的で、かつ安全な答えは、まずは「一般内科」あるいは「総合診療科」を受診することです。なぜなら、発熱は、非常に多くの病気の初期症状として現れる、極めて一般的なサインだからです。風邪やインフルエンザといったよくある感染症から、肺炎、腎盂腎炎、あるいは自己免疫疾患まで、その原因は多岐にわたります。一般内科や総合診療科の医師は、特定の臓器に限定せず、患者さんの全身の状態を幅広く診察するプロフェッショナルです。丁寧な問診で、発熱以外の症状(咳、喉の痛み、腹痛、関節痛など)を聞き取り、聴診や触診、そして必要に応じて血液検査やレントゲン検査などを行うことで、発熱の原因となっている病気を総合的に探っていきます。そして、その診察の結果、より専門的な治療が必要だと判断された場合に、適切な専門診療科への「橋渡し」をしてくれるのです。例えば、ひどい咳や呼吸困難があれば「呼吸器内科」へ、排尿時の痛みや背中の痛みがあれば「泌尿器科」へ、といった具合です。いきなり専門科を受診してしまうと、もし見立てが違った場合に、再度別の科を受診し直すという手間がかかってしまいます。最初に総合的な窓口である内科を受診することは、このような「たらい回し」を防ぎ、的確な診断への最短ルートをナビゲートしてもらう上で、非常に賢明な選択と言えるのです。もちろん、喉の痛みだけが突出して強い場合は耳鼻咽喉科、ケガをした後の発熱なら整形外科、というように、明らかな原因が他にある場合はその限りではありません。しかし、特に思い当たる節がなく、どうすれば良いか迷った時は、まず「内科」の扉を叩く。これが、発熱時に覚えておくべき、基本の行動原則です。

  • ただの風邪だと思っていたら…発熱の裏にあった意外な病気

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    多くの人にとって、発熱は「風邪」の代名詞のようなものです。市販の薬を飲んで、暖かくして寝ていれば、数日で治る。ほとんどの場合は、その通りです。しかし、私、田中(仮名・四十代男性)が経験した発熱は、そんな生易しいものではありませんでした。それは、ただの風邪ではなかったのです。始まりは、ありふれたものでした。週末に少し無理をした後、月曜の朝から、体に悪寒が走り、体温は三十八度五分。喉の痛みや咳はほとんどなく、とにかく体中の節々が痛く、だるい。「典型的な風邪だな」と思った私は、会社を休み、一日中ベッドで過ごしました。しかし、翌日になっても熱は下がるどころか、三十九度近くまで上昇。そして、右の背中から腰にかけて、ズーンと重い鈍痛が現れ始めたのです。最初は寝違えたのかと思いましたが、その痛みは時間と共に強くなり、体を動かすたびに響くようになりました。三日目の朝、さすがにおかしいと感じた私は、近所の内科クリニックを受診しました。医師は、私の症状を聞き、聴診器を当てた後、こう言いました。「念のため、尿検査をしてみましょう」。採尿を終えて待っていると、診察室に呼ばれ、医師から告げられたのは、予想もしない病名でした。「田中さん、これは『腎盂腎炎(じんうじんえん)』ですね。腎臓に細菌が感染して、炎症を起こしています。すぐに抗生物質による治療が必要です」。腎盂腎炎?聞いたこともない病名に、私は呆然としました。医師によると、膀胱炎などを我慢していると、細菌が尿管を逆流して腎臓まで達し、高熱や背中の痛みを引き起こすことがある、とのこと。確かに、数日前から少し排尿時に違和感があったことを、私は思い出しました。すぐに点滴で抗生物質の投与が開始され、飲み薬も処方されました。もし、あの時、「どうせ風邪だろう」と高を括り、背中の痛みをただの筋肉痛だと無視して、病院へ行かずにいたら。細菌がさらに増殖し、血液に乗って全身に広がる「敗血症」という、命に関わる状態になっていたかもしれない、と医師は言いました。この体験を通じて、私は、発熱という一つの症状の裏には、様々な病気の可能性が隠れていることを、身をもって知りました。そして、いつもと何か違う、と感じる自分の体のサインに、真摯に耳を傾けることの重要性を、痛感したのです。

  • 大人の起立性調節障害?その不調、子供だけの病気じゃない

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    「起立性調節障害(OD)」は、一般的に思春期に多い病気として知られています。しかし、成人してからも、同様の症状に悩まされ続ける人や、大人になってから初めて発症する人も、実は少なくありません。朝起きられない、午前中の強い倦怠感、立ちくらみやめまい。これらの症状を、単なる「低血圧」や「疲れやすい体質」として片付けているけれど、実はその背景に、治療が必要な自律神経の機能不全が隠れている可能性があるのです。大人の場合に、OD様の症状が起きる原因は様々です。一つは、思春期に発症したODが、完全に治癒しないまま、成人期にまで持ち越されてしまうケースです。症状は軽くなったものの、ストレスや過労、睡眠不足などが引き金となって、再び症状が悪化することがあります。もう一つは、成人してから新たに発症するケースです。特に、女性の場合は、出産後のホルモンバランスの乱れや、育児による極度の疲労、あるいは更年期における自律神経の揺らぎが、OD様の症状を引き起こすことがあります。また、男女問わず、過重労働や長時間にわたるデスクワーク、不規則なシフト勤務といった、現代社会特有の生活習慣も、自律神経のバランスを崩し、症状を誘発する大きな要因となります。大人の場合、問題となるのは、この病気に対する医療現場や社会の認知度が、まだ低いことです。子供であれば「起立性調節障害」と診断されるような症状でも、大人が訴えると、「うつ病」や「慢性疲労症候群」と診断されたり、あるいは「原因不明の不定愁訴」として、はっきりとした診断がつかないまま、ドクターショッピングを繰り返してしまったりすることが少なくありません。もし、あなたが長年、原因不明の朝の不調や、立ちくらみに悩んでいるのであれば、子供の病気だと諦めずに、一度、自律神経の専門家がいる医療機関に相談してみる価値はあります。受診すべき診療科としては、「循環器内科」で心臓や血圧に異常がないかを確認した上で、「心療内科」や、自律神経外来を標榜する「内科」などが挙げられます。あなたの長年の苦しみは、正しい診断と治療によって、改善できる可能性があるのです。

  • 沈黙の臓器の健康診断、肝機能の数値の見方

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    アルコール性肝障害は、初期には自覚症状がほとんどないため、その発見のきっかけとして最も重要なのが、健康診断などで行われる「血液検査」です。検査結果の紙に並んだ、アルファベットと数字の羅列。その中でも、特に肝臓の状態を示す「AST(GOT)」「ALT(GPT)」「γ-GTP(ガンマジーティーピー)」という三つの数値は、お酒を飲む習慣のある人なら、必ずチェックすべき重要な指標です。これらの数値が、あなたの肝臓の状態を雄弁に物語っています。まず、「AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)」と「ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)」は、どちらも肝細胞の中に含まれる酵素です。肝臓の細胞が、アルコールやウイルスなどによって破壊されると、これらの酵素が血液中に漏れ出してきます。そのため、ASTとALTの数値が高いということは、「今、肝細胞が壊れている」というサインになります。ALTは主に肝臓に存在しますが、ASTは肝臓だけでなく、心臓や筋肉にも存在します。アルコール性肝障害の場合は、ASTの方がALTよりも優位に上昇する(AST > ALT)という特徴が見られることがあります。次に、「γ-GTP(ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ)」です。この酵素は、アルコールの摂取に非常に敏感に反応することで知られており、まさに「お酒の飲みすぎ指標」とも言えます。習慣的に飲酒をしていると、肝臓でのγ-GTPの産生が促進され、数値が上昇します。ASTやALTが正常でも、γ-GTPだけが高い場合は、まだ肝細胞の破壊には至っていないものの、肝臓がアルコールによって負担を受けている状態(アルコール性脂肪肝など)を示唆しています。これは、体からの「これ以上、飲み続けると危険ですよ」という、初期の警告サインです。健康診断で、これらの肝機能の数値に「要経過観察」や「要精密検査」といった判定が出た場合、それは沈黙の臓器がようやく発した、貴重なメッセージです。絶対に放置せず、必ず消化器内科や肝臓内科を受診し、腹部超音波(エコー)検査などを受けて、肝臓の詳しい状態を調べてもらうようにしてください。早期の対処が、あなたの肝臓の未来を大きく左右するのです。

  • 大人がおたふかぜに、何科を受診すれば良い?

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    高熱と、耳の下から顎にかけての、経験したことのないような腫れと痛み。症状からして、どうやら「おたふくかぜ」に感染してしまったようだ。そう思った時、大人はどの診療科を受診するのが最も適切なのでしょうか。子供であれば迷わず小児科ですが、大人の場合は、症状や状況に応じて、いくつかの選択肢が考えられます。まず、最も一般的で、最初の相談窓口として適しているのが「内科」です。内科医は、発熱や倦怠感といった全身症状を診察し、おたふくかぜの診断を下すことができます。おたふくかぜには特効薬がないため、治療は、つらい症状を和らげる対症療法が中心となります。内科では、高熱や頭痛に対する解熱鎮痛剤や、痛みで食事が摂れない場合の点滴など、全身状態を管理するための適切な処置を受けることができます。また、他の感染症(例えば、伝染性単核球症など、似た症状を示す病気)との鑑別も行ってくれます。次に、耳下腺や顎下腺の腫れ、痛みが特に強い場合は、「耳鼻咽喉科」も専門の診療科となります。耳鼻咽喉科医は、首周りの構造の専門家です。腫れているのが、本当におたふくかぜの原因である耳下腺なのか、あるいは化膿して膿がたまる「化膿性耳下腺炎」や、唾液の通り道に石ができる「唾石症」、あるいはリンパ節の腫れではないか、といった鑑別診断を得意としています。超音波検査などで、腫れの内部の状態を詳しく調べることも可能です。そして、もし、おたふくかぜの合併症を疑うような、危険なサインが現れた場合は、状況が変わってきます。「激しい頭痛」と「嘔吐」が続く場合は、髄膜炎の可能性があるため、「神経内科」や、入院設備のある総合病院の受診が必要です。男性で、「睾丸の激しい痛みと腫れ」が現れた場合は、精巣炎が疑われるため、「泌尿器科」が専門となります。とはいえ、最初にどの科に行くべきか迷ったら、まずはかかりつけの「内科」に相談するのが最もスムーズです。そこで診断を受け、もし合併症の兆候が見られれば、適切な専門科へ紹介してもらう、という流れが一番確実で安心な方法と言えるでしょう。

  • 肋軟骨炎と肋間神経痛、似ている胸の痛みの違い

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    胸の片側に、突然、鋭い痛みが走る。この症状を聞いて、多くの人が思い浮かべるのが「肋間神経痛」と「肋軟骨炎」です。この二つは、どちらも命に別状のない良性の疾患でありながら、心臓の病気と間違えられるほどの強い痛みを引き起こす点で共通しています。症状も似ているため、混同されがちですが、その痛みの発生メカニズムには違いがあります。まず、「肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)」は、その名の通り、肋骨に沿って走っている「肋間神経」が、何らかの原因で刺激されることによって起こる「神経痛」の一種です。病名というよりは、症状名と言った方が正確です。原因は様々で、帯状疱疹ウイルスによるもの、背骨(胸椎)の変形やヘルニアによる神経の圧迫、あるいは原因不明の特発性のものもあります。痛み方は、「電気が走るような」「ピリピリ、チクチクする」といった、神経痛特有の鋭い痛みが、片側の肋骨に沿って帯状に現れるのが特徴です。一方、「肋軟骨炎(ろくなんこつえん)」は、胸骨と肋骨をつなぐ「肋軟骨」という部分に炎症が起きる病気です。これは、神経の痛みではなく、あくまで「炎症性の痛み」です。そのため、痛み方は「ズキンとする」「疼くような」鋭い痛みであり、痛みの場所も、胸の前面の、特定の肋軟骨の部位に限定されます。そして、この二つを見分ける上で、最も重要な違いが「圧痛点(押して痛い点)の有無と場所」です。肋軟骨炎は、炎症が起きている肋軟骨の部分を指で押すと、ピンポイントで強い痛みが再現されます。これに対して、肋間神経痛の場合は、特定の圧痛点ははっきりせず、神経の走行に沿って、広範囲に痛みを感じることが多いです。どちらの病気も、診断と治療を行うのは「整形外科」が中心となります。治療法も、基本的には消炎鎮痛剤の投与や、安静といった保存的治療が主体となる点で共通しています。しかし、帯状疱疹が原因の肋間神経痛の場合は、抗ウイルス薬による早期治療が必要となるため、皮膚科との連携も重要になります。似ているようで少し違う、この二つの痛み。正確な診断は、やはり専門医に委ねるのが一番です。

  • めまいと吐き気、同時に襲われたら何科へ行くべきか

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    自分自身か、あるいは周りの世界が、ぐるぐると激しく回転し、立っていることさえできない。そして、その強烈なめまいと共に、胃の奥からこみ上げてくるような、耐えがたい吐き気に襲われる。この二つの症状が同時に現れた時、多くの人はパニックに陥り、「何か重大な病気ではないか」「一体、どこの病院へ行けば良いのか」と、途方に暮れてしまうことでしょう。この、非常につらく、不安を煽る症状の組み合わせに直面した時、まず最初に受診を検討すべき診療科は「耳鼻咽喉科」です。なぜなら、激しい回転性のめまいと吐き気の原因として、最も頻度が高いのが、体のバランスを司る「内耳(ないじ)」のトラブルだからです。私たちの耳の奥深くにある内耳には、三半規管や耳石器といった、体の回転や傾きを感知する、精密なセンサーが備わっています。この部分に何らかの異常が生じると、脳は体の状態に関する誤った情報を受け取り、視覚からの情報とズレが生じます。この「情報の混乱」が、激しいめまいとして感じられるのです。そして、この強烈なめまいの刺激が、脳の嘔吐中枢を直接刺激するため、吐き気や嘔吐が引き起こされます。耳鼻咽喉科医は、まさにこの内耳の病気の専門家です。特殊な検査で眼球の動き(眼振)を観察したり、平衡機能検査を行ったりすることで、めまいの原因が耳にあるのかどうかを的確に診断します。代表的な病気には、良性発作性頭位めまい症(BPPV)やメニエール病、前庭神経炎などがあります。しかし、注意が必要なのは、ごく稀に、脳梗塞や脳出血といった「脳の病気」が、めまいと吐き気の原因となっているケースです。もし、めまいに加えて、「ろれつが回らない」「手足のしびれや麻痺」「激しい頭痛」といった神経症状を伴う場合は、一刻も早く「脳神経外科」や「神経内科」を受診するか、救急車を呼ぶ必要があります。とはいえ、そのような危険なサインがなければ、まずは最も可能性の高い耳の病気を調べるために、「耳鼻咽喉科」の扉を叩くこと。それが、的確な診断と、つらい症状からの解放への、最も確実な第一歩となるのです。

  • 髄膜炎から難聴まで、大人が警戒すべき合併症

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    大人がおたふくかぜにかかった際に警戒すべき合併症は、男性の精巣炎だけではありません。ムンプスウイルスは、神経系にも親和性が高く、様々な深刻な合併症を引き起こす可能性があります。その代表格が、「無菌性髄膜炎」です。これは、脳と脊髄を覆っている髄膜という膜に、ウイルスが感染して炎症を起こす病気です。おたふくかぜの患者さんのうち、約一割が発症すると言われており、決して稀な合併症ではありません。耳下腺の腫れと共に、あるいはその数日後に、高熱、激しい頭痛、そして嘔吐といった症状が現れます。首の後ろが硬くなり、前に曲げにくくなる(項部硬直)のも特徴的なサインです。ほとんどの場合は、後遺症なく回復しますが、入院による安静加療が必要となり、激しい頭痛と嘔吐に、数日間苦しめられます。さらに、ごく稀ではありますが、ウイルスが脳の実質にまで侵入し、炎症を起こす「脳炎」を発症することもあります。この場合は、意識障害やけいれんを伴い、命に関わったり、永続的な神経学的後遺症を残したりする可能性のある、極めて危険な状態です。そして、もう一つ、非常に深刻で、かつ回復の見込みがない合併症が、「ムンプス難聴」です。これは、ウイルスが、音を感じ取る内耳の蝸牛(かぎゅう)という部分の神経を破壊してしまうことで起こります。ある日突然、片側の耳が全く聞こえなくなる、というのが典型的なパターンです。めまいを伴うこともあります。この難聴は、現在の医学では、残念ながら有効な治療法がなく、一度失われた聴力は、二度と元に戻ることはありません。おたふくかぜ患者数百人から数千人に一人の割合で発生すると言われており、決して他人事ではありません。片耳が聞こえなくなるだけでも、音の方向感覚が失われ、日常生活に大きな支障をきたします。また、女性の場合は、男性の精巣炎と同様に、「卵巣炎」を発症することもあります。下腹部痛や不正出血などを引き起こしますが、精巣炎とは異なり、女性不妊の直接的な原因となることは稀であるとされています。これらの重篤な合併症は、ワクチンで予防できる病気です。大人のおたふくかぜのリスクを正しく理解し、備えることが何よりも重要です。

  • 「おたふくかも?」と思った時の正しい過ごし方

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    大人がおたふくかぜに感染してしまった場合、つらい症状を乗り切り、合併症のリスクを減らすためには、適切な療養とセルフケアが非常に重要になります。おたふくかぜにはウイルスを直接退治する薬はないため、自分自身の免疫力がウイルスを打ち負かすのを、静かにサポートしてあげることが治療の基本です。まず、何よりも優先すべきは「絶対安静」です。高熱と強い倦怠感は、体がウイルスと全力で戦っているサインです。仕事や家事は完全に休み、とにかく体を横にして、エネルギーの消耗を最小限に抑えましょう。無理に動くと、体力を消耗し、回復が遅れるだけでなく、髄膜炎や精巣炎といった合併症を誘発するリスクを高めてしまいます。次に重要なのが、「水分補給」です。高熱で大量の汗をかくため、脱水症状に陥りやすくなります。水やお茶、経口補水液などを、こまめに摂取することを心がけてください。そして、多くの人を悩ませるのが、耳下腺の痛みによる「食事困難」です。口を開けたり、物を噛んだりすると激痛が走るため、食事を摂るのが非常につらくなります。この時期は、栄養バランスよりも、まず「口にできるものを摂る」ことを最優先に考えましょう。おかゆや、よく煮込んだうどん、ゼリー、プリン、ヨーグルト、アイスクリームといった、あまり噛まずに済む、喉越しの良いものがお勧めです。また、唾液の分泌を促す、レモンや梅干しといった「酸っぱいもの」は、唾液腺を刺激して激痛を引き起こすため、絶対に避けてください。痛みを和らげるための工夫としては、腫れている耳下腺のあたりを、冷たいタオルや冷却シートで「冷やす」と、心地よく感じ、痛みが少し和らぐことがあります。入浴は、体力を消耗するため、熱が下がって体調が落ち着くまでは、控えるのが賢明です。そして、おたふくかぜは、学校保健安全法で「出席停止」が定められている感染症です。耳下腺の腫れが現れてから五日が経過し、かつ全身状態が良好になるまでは、他の人にうつしてしまう可能性があるため、外出は厳禁です。つらい時期ですが、焦らず、じっくりと体を休ませることが、回復への一番の近道となるのです。

  • 沈黙の臓器の悲鳴、アルコール性肝障害とは何か

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    日々の仕事の疲れを癒す一杯、仲間と語らう楽しい酒席。多くの人にとって、アルコールは人生を豊かにする潤滑油のような存在かもしれません。しかし、その付き合い方を間違えると、私たちの体を健やかに保つために黙々と働き続ける「肝臓」を、静かに、しかし確実に蝕んでいくことになります。それが「アルコール性肝障害」です。アルコール性肝障害とは、その名の通り、長期間にわたる過剰な飲酒が原因で引き起こされる、肝臓の一連の病気の総称です。私たちが口にしたアルコールは、主に肝臓で分解されます。しかし、肝臓が分解できるアルコールの量には限界があります。その処理能力を超える量のアルコールを摂取し続けると、分解の過程で発生するアセトアルデヒドなどの有害物質が肝臓の細胞を直接傷つけ、また、脂肪の代謝を妨げることで、肝臓に様々な障害を引き起こすのです。この病気の最も恐ろしい点は、肝臓が「沈黙の臓器」と呼ばれるように、初期の段階ではほとんど自覚症状が現れないことです。多くの人は、健康診断で「肝機能の数値が悪いですよ」と指摘されて、初めて自分の肝臓に異変が起きていることに気づきます。病気は、まず肝臓に中性脂肪がたまる「アルコール性脂肪肝」から始まります。この段階であれば、禁酒や節酒によって、肝臓はまだ元の健康な状態に戻ることができます。しかし、この警告を無視して飲酒を続けると、炎症を伴う「アルコール性肝炎」へと進行します。この段階になると、倦怠感や食欲不振、発熱といった症状が現れ始めます。さらに飲酒を続けると、傷ついた肝細胞が硬い線維組織に置き換わっていく「アルコール性肝線維症」を経て、最終的には肝臓全体が硬く、小さくなってしまう「肝硬変」へと至ります。肝硬変になると、肝臓はもはや元の状態には戻れません。黄疸や腹水、意識障害といった深刻な症状が現れ、最終的には肝不全や肝がんによって、命を落とす危険性もあるのです。アルコール性肝障害は、飲酒習慣のある人なら誰でもかかる可能性のある病気です。あなたの肝臓が、取り返しのつかない悲鳴を上げる前に、自身の飲酒習慣を見つめ直すことが何よりも大切です。