それは、朝から激しい腹痛に襲われたある火曜日のことでした。意識が朦朧とする中で着替えを済ませ、タクシーを呼んで這うようにして近くの総合病院に向かいました。受付で名前を告げ、診察券を出したところで、事務の方から「保険証はお持ちですか?」と尋ねられました。その瞬間、財布の中に保険証が入っていないことに気づきました。前日に別の手続きのために取り出し、机の上に置き忘れてきたのです。事務の方は申し訳なさそうに、保険証の提示がない場合は本日の診療費は全額自己負担、つまり十割負担になると説明してくれました。背に腹は代えられない状況だったため、私は承諾して診察を受けました。点滴を受け、血液検査と腹部エコー検査を行い、ようやく痛みも落ち着いた頃、会計窓口で提示された金額は三万八千五百円でした。普段なら数千円で済む内容ですが、十割負担という現実が数字として突きつけられ、思わず財布の中身を確認しました。幸いクレジットカードが使えたため支払いは済みましたが、もし現金のみのクリニックだったらと思うとゾッとします。しかし、この実体験には続きがあります。事務の方から、同月内に有効な保険証と領収書を持ってくれば、窓口で清算し直し、七割分を返金できるという案内を受けたのです。後日、無事に保険証を持って再訪すると、差額の二万六千九百五十円が手元に戻ってきました。この経験から学んだことは二つあります。一つは、日本の医療費は十割負担になると想像以上に高額であり、緊急時に備えてクレジットカードやある程度の現金を持っておくべきだということ。もう一つは、保険証を忘れてもその場での支払いが完了していれば、後から払い戻しを受ける救済措置があるということです。ただし、この窓口での清算は受診した月内という期限があることが多く、月を跨いでしまうと、自分で健康保険組合や市役所に療養費の支給申請を行うという非常に手間のかかる手続きが必要になります。十割負担という言葉の響きは恐ろしいものですが、その仕組みとリカバリーの方法を知っていれば、冷静に対処することができます。あの時の三万八千円という領収書の重みは、今でも私の防災バッグの中に保険証のコピーを入れておく強い動機になっています。
保険証を忘れて全額負担になった私の実体験と返金までの流れ