日本を訪れる外国人旅行者や、海外から帰国して一時的に健康保険に加入していない状態にある方にとって、日本の病院での十割負担は大きな不安要素となります。世界的に見て日本の医療水準は極めて高い一方で、その費用体系は保険診療を前提として設計されているため、無保険状態での受診は思わぬ高額請求を招くことがあります。一般的な風邪や腹痛での外来受診であれば、診察と数日分の薬で一万円から二万円程度が目安となりますが、これが骨折や急性疾患による入院・手術となると、数十万円から数百万円単位の費用が発生します。例えば、盲腸の切除手術を受けて数日間入院した場合、保険適用後の三割負担であれば十万円から十五万円程度ですが、十割負担となれば四十万円から五十万円以上の請求となるのが一般的です。さらに、重症の感染症や心疾患などで集中治療室(ICU)を利用することになれば、一日あたりの入院費だけで十万円を超えることも珍しくありません。こうした状況において、支払いに備えるためにまず検討すべきは、海外旅行保険や民間の医療保険への加入です。クレジットカードに付帯している保険でも、医療費のキャッシュレスサービスに対応しているものを選べば、高額な十割負担を窓口で立て替える必要がなくなります。また、もし無保険の状態で緊急受診し、支払いが困難な金額になった場合には、病院の医療ソーシャルワーカーに相談するという選択肢もあります。一部の病院では、無料低額診療事業として、経済的に困窮している方に対して診療費の減免を行っているケースがあります。また、支払方法についても分割払いの相談に乗ってくれることがあります。日本の医療機関は、人道的な観点から緊急の患者を拒否することは少ないですが、事後の精算については厳格です。十割負担という制度は、すべての人に平等に提供される医療の対価を透明化している側面もあります。これから日本に滞在する予定がある、あるいは一時的に保険が切れる可能性がある方は、自分が受ける可能性のある医療サービスの「定価」がいかに高いかを知り、適切な準備をしておくことが、安心して日本で過ごすための不可欠な知恵と言えるでしょう。