私は三十一歳になるまで、水疱瘡は子供の頃に済ませておくべき通過儀礼のようなものだと考えていました。しかし、ある日突然、保育園に通う甥っ子から水疱瘡をうつされたことで、私の人生で最も過酷な二週間が始まりました。自分でもかかった記憶がなかったので不安はありましたが、実際に発症した時の苦しみは想像を絶するものでした。始まりは、激しい頭痛と四十度近い高熱でした。最初は季節外れのインフルエンザかと思いましたが、翌朝、鏡を見た私は悲鳴を上げそうになりました。顔や首筋に、真っ赤な発疹が無数に浮かび上がっていたのです。それからは坂道を転げ落ちるように症状が悪化しました。発疹は数時間で水ぶくれに変わり、頭皮から足の裏、さらには口の中や喉の奥まで、文字通り全身が水疱で埋め尽くされました。水疱瘡にかかったことがない大人が感染するとどうなるか、その答えは「地獄」という一言に尽きます。まず、激しい痒みが二十四時間休むことなく襲ってきます。しかし、掻き壊せば痕が残ると医師に厳しく言われていたため、冷やしたタオルを体に巻き付け、意識を遠のかせるようにして耐えるしかありませんでした。熱は五日間も下がらず、喉の水疱のせいで水さえ飲み込むのが苦痛で、脱水症状との戦いでもありました。病院では「大人の水痘は肺炎になりやすいから」と何度も肺の音を確認され、抗ウイルス薬の点眼と内服を徹底されました。仕事はもちろん全休せざるを得ず、取引先への謝罪や引き継ぎも、朦朧とする意識の中でなんとかこなしましたが、その精神的ストレスも相当なものでした。ようやく熱が下がり、水疱が全てかさぶたに変わる頃には、私の体力は限界まで削り取られていました。鏡を見ると、かつての自分の肌が嘘のようにボロボロになっており、特に顔に残ったいくつかの深い窪みを見るたびに、なぜもっと早くワクチンを打っておかなかったのかと激しい後悔の念に駆られました。結局、職場に復帰できるまでには三週間近くかかり、体力が元に戻るには数ヶ月を要しました。大人の水疱瘡は単なる皮膚病ではなく、全身を破壊するような暴力的な感染症です。もし、この記事を読んでいる大人の皆さんのなかで「自分はかかったことがない」あるいは「記憶が曖昧だ」という方がいれば、私は強く言いたいです。どうか今すぐ抗体検査に行き、必要ならワクチンを打ってください。私が経験したあの地獄のような苦しみは、たった数千円のワクチンで防げたものだったのです。健康のありがたみと、予防医療の大切さを、私はこの凄まじい痛みを伴う体験から痛烈に学びました。